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会社をつくるってどんな気持ち?「透明書店株式会社」を設立しました

連載「透明書店準備号」2話目では、freeeの子会社「透明書店株式会社」の設立についてご報告します。地味に見えて、ちょっと非日常な手続きたち。実際に会社を設立したときの、リアルな感情についてもお話しています。

2023年4月、東京・蔵前に本屋『透明書店』をオープンすることとなったfreee。 会計や労務、販売管理など、さまざまなクラウドサービスを開発・販売しているIT企業が、なぜいまスモールビジネスに挑戦するのか……。 スモールビジネスをもっと深く理解したい。スモールビジネスの「リアル」や「おもしろさ」を世の中に伝えていきたい。「スモールビジネスをやりたい!」と思っている人の背中を押すことができるような存在になりたい。 1話目「会計ソフトの会社『freee』が、東京・蔵前で小さな本屋をはじめます」では、オーナーである岡田悠さん、岩見俊介さんにプロジェクトにかける想いを語っていただきました。
前回までの連載はこちら

今回も、ライターの中前結花さんに取材していただきました。


並んで座る岡田と岩見に取材している様子

再びやって来ました。ここは、ビルが立ち並ぶオフィス街・大崎にある、freeeの本社オフィス。
すっかり本屋のオープンが楽しみになっているので、足取りもとても軽いのです。

今日は、岡田さんと岩見さんが、“とあるもの”を見せてくださるそうです。

「会社を作る」ということ

印鑑の写真

——おお。これが、そうなんですね。

岡田:
はい、昨年完成した「透明書店株式会社」の印鑑です。

岩見:
「透明書店株式会社」は、親会社であるfreeeの「freee会社設立」というサービスを使って設立したんです。その流れに沿って順に進めていったら、必要な書類を用意することができて、印鑑もちゃんと手配できるようになってるんですよ。
登記や契約で使う実印と、領収書で使うような角印、それから銀行印の3つがセットになったものが届きました。

——これまでお話でうかがうばかりでしたが、やっぱりここに「実体」があると、ぐっと現実味のようなものが増して、感慨深いですね。お二人はいかがですか?

岡田:
うーん……(岩見さんと顔を見合わせる)そうですね。
ただそれよりも……会社設立にあたって、印鑑を押さなきゃいけない、押してもらわなきゃいけない、みたいな工程がやっぱりいくつかあって。改めて「印鑑って変わった制度だな」と思う気持ちが正直大きいかもしれません(笑)。

岩見:
決まりだから仕方ないですけど、不思議だなあって。

笑顔の岡田と岩見

——はははは(笑)。なんだか「夢のない」感想にも思えますが、とってもリアルですね。

岡田:
経験したことのないことも多かったので、楽しめましたけどね。

岩見:
簡単だけど、そういうステップをたくさん踏んで、なんとか「透明書店株式会社」を設立することができました。

「透明書店株式会社」という名前

——会社を設立する! となったとき、一番最初に手を付けるべきはどんなことなんでしょうか?

岡田:
1番最初は……、Gmailのアカウントを作ることですかね(笑)。

——それもまた非常にリアルです……。どこかにメールを送る必要が?

岡田:
いえ。メールアドレスがないと、「freee会社設立」のアカウントが作れなかったので...。開店前には自社のドメインを取得しようと思っているのですが、手続きのスピードを優先して、とりあえず。会社設立って、メールアドレスから始まるんだなあ、と思いました。

岩見:
設立手続きを進めていくなかで、「決算期をどうするか」とか「取締役会を設置するのか」みたいな、まだ決められていなかった細かい事項に気づくこともあったんですけど、「一般的にはこうですよ」みたいなことがあらかじめ「freee会社設立」には書いてあるので。
今後、透明書店では自社のサービスも公平な目線で見ようと思っているのですが、freee会社設立は普通に「安心だなあ」と思いましたね。

——会社のお名前は、「透明書店株式会社」の一択でしたか?

岡田:
これは、親会社からの学びなんですが、もともとfreeeは「CFO株式会社」っていう社名だったんですよ。「“freee”というサービスを提供している“CFO株式会社”」だったんです。だけど、社名とプロダクト名を二つ覚えてもらうのってなかなか難しくて。それに、社名っていろんな場所に表記されますから、思った以上に宣伝効果があるんですよね。そこで、「freee株式会社」に社名を途中で変更したんです。
そういった経緯から、今回もそのままの名前にしました。

取材を受ける岡田

岩見:
悩んだのは、「株式会社」にするか「合同会社」にするかですね。合同会社の方が設立費用が少なく済んだり、電子の申請ですべて完了できたりするんです。
基本的には、「合同会社がいいなあ」と考えていたんですが、親会社が上場企業であるという制約上、やむを得ず「株式会社」になりました。これについては、会社設立をされるとき、みなさん良い方をご検討されるといいかなと思います。

登記申請のフロー図

ちょっと不思議な「公証役場」へ…?

——では、「freee会社設立」の手順に沿ってポチポチ埋めて、順調に進めていかれたと。途中、先ほどもお話が出てきた「印鑑」が登場する「定款(ていかん)認証」というステップがありますよね? 馴染みのない分、なんだか難しそうだなあ、と思ってしまうのですが、これはどんなものでしたか?

岩見:
ぼくも身構えていたんですが、思ったよりも難しいものではなかったですね。
まず、会社設立には「定款」というものが必要なんですが、これは会社の目的とか構成員とか業務内容について書いた書類です。これに印鑑を押してもらわないといけない。

岡田:
そうなんです。「公証役場」という場所でその内容を認めてもらう必要があって。「定款」を印刷した紙に印鑑を押してもらう、ただそれだけのことなんですけど、ぼくらが行った五反田の公証役場、そこがなんというか……ちょっと不思議だったんです(笑)。

——不思議……?

岩見:
勝手に区役所みたいな場所だと思っていたので、びっくりしちゃっただけなんですけどね(笑)。不動産屋や消費者金融と並んでビルの3階にこじんまりと構えられていたので。なんか「探偵事務所みたいだな!」と思って。思わず、岡田さんと「ここ?」と顔を見合わせました。

五反田公証役場の看板

——ああ、本当だ。こんなところにあるんですね。赤い字で……。

岡田:
向かってみたら、そこにも「公証役場」って書いてある赤い玄関マットが敷いてあって。「ここで印鑑を押すことができる公証人って、日本に500人しかいないらしいよ」なんて話をしながら、恐る恐る入っていきました。

岩見:
ちょっとドキドキしちゃいましたね(笑)。

定款認証直後に五反田公証役場の看板前で記念写真を撮る岩見と岡田
「透明書店株式会社」の定款認証を終えたあと

——1年間で14万社以上の会社が設立されると聞きました。みなさんがこの印鑑を求めて申請されると思うと、それもまたちょっと不思議な感じがしますね。

岡田:
たしかに。この定款認証に関しては、不思議に思うことがいっぱいありましたね(笑)

11月11日、「透明書店株式会社」設立

——そしてその後、「登記申請」をして会社を設立された、と。これも定款と同じように実際にどこかに出向くものですか?

岩見:
本来は郵送でも良いそうなんですけど、「行って見てみたい」という気持ちと、あとはどうしても11月11日を設立の日にしたかったので、岡田さんと2人で区役所にある法務局の出張所まで提出しに行きました。

取材を受ける岩見

——11月11日には、何か特別なこだわりがあったのでしょうか?

岡田:
もともとは、「11月1日」を設立の日にしたかったんですよ。というのも、この日は「本の日」という記念日なんです。キリもいいですし、本の日を目指して準備を進めていたんですけど、どうしても間に合わなくて。

岩見:
それで、調べてみたら「1の数字の羅列が、本が並んでるように見えるから」という理由で制定された記念日だとわかったんです。「だったら、11月11日でもいいんじゃないか?」ということになって、今度は「11月11日」を狙うことにしました。
後付けですが、「新しい価値を追加するんだ」という意味も込めて、「11月1日」に「+1(プラスワン)」。「1」が4つ並んだこの日を設立の日にしたんです。

——なるほど、そういった理由だったんですね。区役所では、顔を見合わせてドキドキすることはありませんでしたか?(笑)

岡田:
区役所は、普通でしたね(笑)。同じ施設内に収入印紙売り場があるので、そこで必要な収入印紙を買って貼り付けて、提出するだけでした。
だけど、ちょっと嬉しかったのは、収入印紙売り場の女性が「おめでとうございます」って言ってくれたんですよ。購入した金額で、「会社設立だ」とわかったんでしょうね。「ありがとうございます」と2人で頭を下げました。

岩見:
それが、いちばん心に残ったシーンかもしれません。ああ、こんなこと言ってくださるんだ、と思って。なんかちょっとうれしかったです。

取材を受ける岡田

会社設立は、入籍に似ている……?

——11月11日。この日、「会社ができた」わけですよね。やはり特別な感情や実感が湧いてきましたか?

岡田:
「感慨深いなあ」といった感情よりは、freeeで働いている以上、会社にまつわる手続きは一通り経験した方がいい...と思っていたので、「やっと体験できたな」という感覚の方が大きかったです。事例を一つ作ることができて良かったなと。

岩見:
ぼくは、感慨深さも多少ありましたけどね(笑)プロジェクトや事業の責任者になることは想定して入社しましたが、こんなスピード感(岩見さんは昨年8月に入社)で、まさか会社の責任者になるとは思っていなかったので。
だけどたしかに、「会社設立」の手順に関しては、あまりにもスムーズに事が進んでいくので、一つひとつ「ああ、こんなものなのか」といった感想ではありましたね。登記申請に関しても、特に「承認されました」という連絡があるわけじゃないので。
よく、結婚した人が「入籍って、あんまり実感がないなあ、感慨がないなあ」みたいに言うのと似ているかもしれません。意外とやってみると、すぐに終わっちゃう。

質問を受けて考える岩見

——それだけ滞りなく、無事に設立する事ができた、ということですね。

岡田:
収入印紙を買うときの「おめでとうございます」がピークだったかもしれませんね(笑)。

岩見:
たしかに。特にお祝いなんかもしたわけじゃないですしね。

——設立から1年の節目となる、今年の11月11日に初めてお祝いしたくなるのかもしれませんね。

岡田:
きっとそうだと思います。「ああ、1年やってこれたんだな」とそこで初めて感慨深くなるんでしょうね。なにしろ今は、スタートラインに立ったところですから。まずはそこに「立ちました」という真っさらな感覚でいます。

岩見:
大変なのはこれからですからね。いまはどんな本屋をつくっていくのか...ということで頭がいっぱいです。

——次回はその辺りのお話をお聞きできるということで、今から楽しみにしています!

取材を受ける岩見と岡田の後ろ姿

次の記事では、店名と事業計画についてお話ししています。店名が重要なのは、なぜなんでしょうか…?

◆中前結花
ライター・エッセイスト。下北沢の書店巡りを日課にしている。著書にエッセイ集『好きよ、トウモロコシ。』(hayaoki books)など。
撮影:藤原慶 デザイン:Samon inc. 編集:株式会社ツドイ


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