「残高が合わない」「マニュアルが複雑すぎ」頭を抱える経理担当に認定アドバイザーがアドバイス
透明書店を舞台に、実務と実験をおこなうプロジェクト「くらげ会」。freee社内からさまざまなスキルを持つ有志メンバーが集い、通常業務の傍ら、さまざまな試行錯誤を重ねています。そんなくらげ会メンバーのリアルな姿に迫る『現場奮闘記』。
今回登場するのは、2024年3月まで会計・経理を担当していたタイジュさん、リコさん、そして「くらげ会秘書」として活躍しているロッキーさん。透明書店の煩雑な経理業務をどう乗り越えたのか。どんな課題に直面したか。リアルな経験談に迫ります。記事後半では、透明書店の経理まわりをチェックしている認定アドバイザー・豊田啓彰さんが登場。率直なアドバイスをもらいました。前回に続いて、取材はライターの安岡晴香さんです。
「経理業務の大変さを肌で感じたい」と思って参加
――さっそくですが、皆さんの自己紹介をお願いします。
ロッキー:
僕は昨年夏頃から、透明書店プロジェクトに秘書役として関わっています。営業部隊として透明書店のことを外部に伝えたり、くらげ会の振り返りを行なったり。幅広い業務を担ってきました。今日は、経理まわりのリアルな話を聞けるということで楽しみにしています。
タイジュ:
僕は普段、スモール個人ユーザー事業部に所属しています。主なミッションは、個人事業主や従業員1〜10名ほどの法人に、freeeのプロダクトを使っていただくこと。to C、to B、両方に営業をかけています。
リコ:
私は「freee会計」のプロダクトデザイナーとして、使い心地のいいサービスデザインを追求しています。いろいろな体験をしていただけるよう機能を作って、実際にユーザーさんに触っていただきながら調整していきます。
――今日は、現場のリアルな体験談を聞いていこうと思います。まず、くらげ会での詳しい業務内容を教えてください。
タイジュ:
業務のメインは、毎月の数字を出すこと。売上や原価、販売管理費などを細かくチェックして財務状況を確定させています。その他、期末には棚卸しの作業もあります。今日は欠席していますが担当がもう1人いて、特に分担はせず3人で業務にあたっていました。
リコ:
タイジュさんは7月頃からくらげ会に入っていましたが、私は10月頃から入りました。週に2回、1回30分ぐらいで定期的に集まっていましたね。
――お二人は、そもそもなぜくらげ会に参加しようと思ったのでしょうか?
タイジュ:
レジに導入する決済サービスの使い勝手に興味があったからです。僕は参加した当時、店舗型の事業をしているお客様に対してfreeeの導入を提案していました。その関係で、決済サービスの会社とやりとりをする機会が多くあって。ちょうど透明書店が、レジにそのサービスを導入しているということで、関心を持ったんです。決済サービスの実際の使用感や、freeeと連動したときの数字の見え方がリアルに体験できると思い、やってみようと決めました。
リコ:
私が参加した理由は、経理業務の大変さを肌で感じたいと思ったからです。普段ユーザーさんにfreeeの使い心地についてヒアリングしていますが、実際にユーザーさんがどんな壁にぶつかっているのか、どんな不便さを感じているのかが、いまいちリアルにつかめなかったので。理解を深めるチャンスだと思いました。
煩雑さに悲鳴。月締めのときに数字が合わないことも
――2人とも、期待を胸にジョインしたんですね。実際にやってみて、いかがでしたか?
タイジュ:想像以上に大変でした……。実は、引き継ぎをしてくれた前任者が体調不良になり、なかなか質問ができない時期があって。何がなんだかわからない状態で、マニュアルを見ながら手探りで進めていったんです。経理業務は、経営状況を把握する重要なもの。責任重大だなと思い、不安になりながらもなんとかやってました。
リコ:
本当に複雑で、いろいろな壁にぶつかりましたよね。「freee会計」を使っても、なかなかスムーズにいきませんでした。
本来なら、レジシステムとfreeeを連携させて、自動で数字を管理することが可能です。でも、透明書店の場合、すべての売上がレジを経由しているわけではありません。たとえばイベントの売上はレジを経由せずにチケット販売サイトから入ってくるし、レンタルスペースの売上は請求書で処理している。いろんなルートから数字が立つので、ややこしいんです。
タイジュ:
だから結局、Googleスプレッドシートで売上を管理しておいて、freeeに登録しています。ただ、これも複雑で。たとえば、月締めのときに数字が合わないことがあるんです。残高を計算すると数百円辻褄が合わない。その場合は、地味に原因を探します。
リコ:
「freee会計」側の登録漏れのパターンもあれば、その他のエラーのこともあります。たとえば同じ金額の2件の取引が、1つの取引とみなされて1件しか登録されていなかったり。1個ずつ細かくチェックしなければならないので、ものすごい時間がかかります……。
10種類以上あるスプレッドシートは3種類に絞れる
毎月のように壁にぶつかっている経理担当たち。ここからは、認定アドバイザー・豊田さんを交えてお話を伺います。
――豊田さん、今のお二人の話を聞いていて、アドバイザーとしていかがですか?
豊田:
私は昨年12月から透明書店に関わっていて、今は、そもそも経理業務をどんな風に行なっているのかをチェックしています。第一印象として思ったのは、なんと複雑な業務フローになっているんだろうということ。お二人が混乱しているのも納得です。
たとえば、現行のマニュアル。Googleドキュメントに文字ベースでいろいろ書かれていて、そこにGoogleスプレッドシートのリンクが多数貼られています。さらにその後ろに、決済サービスなどのさまざまなシステムが紐づいているという状況。業務フローが確立されているように見えて、まだまだ整っていないのが現状だと思います。
タイジュ:
おっしゃる通りで、耳が痛いです……。
豊田:
まずは、フローをスリム化させて、簡潔なマニュアルを作りましょう。中小企業の引き継ぎでは、前任の人が作り上げた作業を一旦そのままシャドーイングすることが多いです。でも透明書店のように担当者が定期的に入れ替わる場合は、じっくり理解していく時間もない。わかりやすいマニュアルが必要です。
リコ:
確かに……。私たちも実際、覚えることが多すぎて、慣れてきたかなというタイミングで任期が終わってしまいました。
豊田:
そうですよね。まずは第三者的に「ここって何でこういうフローになっているんだっけ?」と考えていくことが大切です。今はさまざまな情報を10種類以上のスプレッドシートで管理されていますが、私が見る限り、3種類に絞れると思いますよ。
タイジュ:
3種類ですか!
豊田:
先ほどの「現金が合わない」という問題も、仕組み次第で改善できるはずです。今は「口座」と「現金」という2つのカテゴリーで残高を管理されていますが、本来はレジと小口現金という性質の違う財布が2種類あるはず。分けて管理すれば、数字がずれたときに探しやすいです。
――ほかに、豊田さんからアドバイスはありますか?
豊田:
後日詳しく提案しようと思っていますが、棚卸の作業も自動化できると思います。今はGoogleスプレッドシートのピボットテーブルを使って、店内在庫のタイトルや冊数を管理していますよね。それより、Google Apps Scriptという機能を活用するとスムーズだと思います。毎月あるような決まった処理に関して「このルールで処理してね」と記憶させておく機能で、そのデータをfreeeに連携できるんです。おそらく8割方の作業を自動化できると考えられます。
タイジュ:
だいぶ楽になりますね。
豊田:
今までのくらげ会は「スモールビジネスの苦労を自分たちで経験したい」という思いがあって、あえて作業を自動化せずにいた側面もあったと思うんです。でもそろそろ、売上を作っていくほうにエネルギーを使うべきフェーズ。いわゆる「攻めの経理」で実績を高めたいところです。細かい作業はシステムに任せて、人間がやるべき仕事に手を広げましょう。
freeeユーザーの皆様に価値を届けたい
――経理の仕事は、4月を目安に次期担当へ渡ります。これまでの感想と、引き継ぎまでに改善したい課題を教えてください。
タイジュ:
くらげ会に参加したことで、freeeのプロダクトをユーザー目線で体験し、便利さに気づくことができました。数字を登録すると項目を推測してくれたり、口座や決済サービスとダイレクトに連携できたり。本来膨大な時間がかかる作業をスピーディーに完了できて、何度も感動しました。また、おかげでユーザーさんと会話するとき、同じ目線に立てるようにもなりました。
とはいえ、今日の話でも浮き彫りになったように、業務フロー自体に課題があるのが現状です。後任に「このやり方がベストです」と胸を張って言えない状態。引き継ぎはもう始まるので、実情を正直に伝えつつ、一緒に改善策を講じていきたいです。
リコ:
私もくらげ会に参加し、freeeのプロダクトにユーザーとして触ったことで、便利さを肌で感じられました。操作する中で、わかりにくい部分をいくつか見つけられ、メイン業務のほうにもフィードバックできそうです。
ひとつ思ったのは、便利だと思う反面、知識がないまま使うと不安になる時もあるなーということ。たとえば自動で売上カテゴリーを推測してくれる機能も、「この判断でいいんだっけ?」と悩むことがありました。今は調べながら作業しているのですが、もっと簡単に、正確に登録できないかなと思っていて、このあたりの課題感も引き継いでいくつもりです。
――くらげ会秘書のロッキーさん、ここまでのお話を聞いていかがでしたか?
ロッキー:
今日は課題がたくさん見えてきましたね。どんどん改善して、数ヶ月〜半年後、記事でビフォーアフターを見せられたらいいなと思います。freeeのプロダクトは、複雑な数字を一本化してシンプルにしてくれるもの。ポテンシャルはまだまだあると思うので、みんなで証明していきたいです。
また、くらげ会での学びをユーザーの皆様とシェアしたいと考えています。たとえば豊田さんからGoogle Apps Script活用術を学んだら、ユーザー向けイベントを開いてレクチャーするとか。1年目のくらげ会はユーザー理解をメインにしていましたが、2年目からは、ユーザーの皆様にもっと価値をお届けできるよう頑張りたいです。
――最後に豊田さんから、透明書店の経営状況も踏まえてメッセージをお願いします。
豊田:
今の透明書店は、持続可能性でいうと「黄色信号」に近い状態です。いろいろ試行錯誤していると思いますが、正常収益力が足りていません。noteでも数字が公開されていますが、黒字化にはなかなか至りませんね。
書店という業態はチャレンジングで、実際、多くの書店がお店を畳まざるを得なくなっています。だからこそ透明書店が、書店経営を軌道に乗せるためのひとつのモデルケースを広く示せたらいいなと思うんです。僕も書店が好きだし、日本のためにも潰れてもらっては困るので、どうにかして力を貸したいです。これからも一緒に頑張っていきましょう。
豊田さんから心強いメッセージをいただいたくらげ会の3人。書店業界に小さな光を灯せるよう、これからも邁進していきます。
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