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「違い」の向こう側:私のDEIコンパス

こんにちは! freee DEIアドベントカレンダー2024 22日目を担当するnatsueと申します。

2023年3月に中途採用でfreeeへ入社し、法務リスク管理部 法務チームで契約審査やリーガル相談対応、社内向け発信・研修コンテンツの作成等に携わっています。
(法務リスク管理部の取組についてはfreee法務の「あえ共」マガジンで随時発信されていますので、ぜひチェックしてみてください!)


私にとってDEIは、単なる理念や流行の言葉ではなく、(ちょっと大げさかもしれませんが)これまでの生い立ちやキャリアに深く結びついているテーマだと感じています。

今回は、自身の経験を振り返りながら綴ってみたいと思います。

違いと向き合う -境界線の上で気づいたこと-

私は中国と台湾、日本の”混血”として生まれ、小学生時代には日本と中国で3度の転校を経験しました。
日中間の歴史的・政治的問題は度々報道でも大きく取り上げられており、その影響で、どちらの国でも嘲笑や差別の対象となった経験があります。中国人としても、日本人としても自尊心を持てないことがむなしく、授業参観の時には「親に学校に来てほしくない」とさえ思っていた時期がありました。

「外国にルーツを持つこと」での難しさに直面する一方で、私のバックグラウンドに興味を持ち、積極的に話しかけてくれる友人たちもいました。文化や価値観の違いを排除するのではなく、それらを受け入れてくれた友人たちとの交流を通じて、日本と中国それぞれの文化の違いと素晴らしさを共有できることの喜びを、幼いながら感じたのを覚えています。

中学校時代は、東京にある台湾人学校に通いました。ここでは同じように複数の文化的背景を持つ生徒たちが多いことから、私のルーツが特別視されることはなく、初めて「自分らしく」過ごせる場所を見つけた気がしました。しかし、台湾文化に馴染みが深い生徒もいれば、日本での生活が中心の生徒もおり、言葉の壁やアイデンティティについて、それぞれが異なる課題を抱えていることを目の当たりにしました。
一見"同じ"と思える環境でも、全員が同じように居場所を感じているわけではなく、ひとりひとりの背景や状況によって感じ方は大きく違うこともあるということに気が付きました。

違いを理解する -世界から学んだ「おもてなし」-

大学卒業後、学生時代の経験と語学力を活かして海外に縁のある仕事がしたいと考え、客室乗務員として日系航空会社に就職しました。
飛行機という、多様な文化が交差する特別な場所では、「おもてなし」にも多様性があることを学びました。

例えば、CA訓練生時代には、英語での接客シーンで何かを承諾する際は、必ず「Certainly, sir/ma'am」(「かしこまりました」)と言うよう厳しく指導されます。しかし、実際の現場で出会う英語圏のお客様の中には、そのような「丁寧すぎる」言葉遣いに違和感を抱かれる方もいらっしゃいました。
日本の航空会社として、日本の丁寧さやおもてなしの精神を体現することは大切な使命ですが、「丁寧さ」や「おもてなし」の形は国や文化によって異なるのです。

また、宗教に配慮した機内食の提供も、多様性への理解が試される場面でした。ユダヤ教のお客様の食事は、お祈りを済ませた後に封をされた状態で機内に搭載され、その封を開けることができるのはお客様本人だけ。他方で、ヒンドゥー教のお客様には、必ず右手でお食事を提供しなければならない(左手は不浄の手とされるという考えがあるため)など、一つひとつの所作に込められる意味を理解することが、異なる文化や信念を持つお客様への敬意を示すものとなります。

客室乗務員として6年間世界を飛び回る中で大切だと学んだのは、
「2.5人称の視点」を持つことです。これは、「自分や家族がお客様だったら」という視点(1人称、2人称)と、「プロ」としての冷静で乾いた視点(3人称)を併せ持つという考え方です。お客様からご要望や不満の声をいただいた時は、まず愛情や思いやりを重視して寄り添って考え、その上で状況を客観的に見つめ直して、ルールに基づき冷静に専門的判断をする。特別な配慮が必要な方への対応についても、その他のお客様から見て「公平性に欠く」と思われないよう、バランスを取ることが大切です。
お客さまの「個」を大事にしたおもてなしを提供するのと同時に、大勢のお客さまに対して平等にサービスをすることは、簡単ではありませんがとてもやりがいがあり、まさにDEIを実践的に学ぶ場になっていたと思います。

違いを活かす -法務の現場で考えるDEI-

航空会社在籍中、(コロナの影響を受け)1年間、損害保険会社の国際管理部に出向する機会をいただきました。海外子会社のコンプライアンス・ガバナンス関連業務や法規制対応を担当する中で、お客様に直接サービスを提供する現場を支えるバックオフィスの重要性を実感しました。 この経験がきっかけとなり、freeeの価値基準に強く惹かれてfreee法務職に転身し、今に至ります。

法務の仕事は「ビジネスに線路を敷く」と表現されることがありますが、単なるルール作りにとどまりません。新しいプロダクトやサービスなど、これまでにない価値を人々に届けるために、法律の知識と考え方を活かし、多角的かつ緻密な視点から事業を的確に前進させる支援を行うことが、法務の使命だと考えています。
たとえば、契約審査の業務は、一見ひたすら条文と向き合う地味な作業のように見えますが、単に参考書の例に沿って起案やレビューをすれば済むものではありません。1つのビジネスが結実するまで、事業部の意思が会社の意思として整理され、さらに最終的には、複数の会社間の意思として集約されます。その出発点はあくまでも「個々人の意思」であり、契約書は、それらの意思を形にする重要なツールだと思っています。
また、契約のプロセスでは、関係する事業部と丁寧なコミュニケ―ションを重ね、事業の本質とリスクの見極めつつ、異なる立場の方々の利害を調整する必要があります。その過程でも常に、まずは異なる立場や価値観を理解して受け入れ、そのうえで公平な判断を行い、包括的な意思決定を導くことが大切だと考えます。

CAと法務は大きく異なる領域ですが、CA時代に学んだ「2.5人称の視点」は、間違いなく今の法務の仕事にも生きていると感じます。そして、2.5人称の視点、DEIの視点を大切にすることで、ビジネスを前に進めるための「最適な線路」を敷くことにもつながると信じています。

”違い”を越える -”つながり”が生む新しい価値-

価値観や文化の違いを知り、受け入れる力は、私のアイデンティティの一部として今も自分自身を支える原動力となっています。

「架け橋になりたい」と言えば響きは良いですが、これまでの生活やキャリアにおける選択を振り返ると、私自身ただ差別のない環境で公平に活躍できる場所を求めていたのかもしれません。
異なるバックグラウンドを持つ人たちが集まり、それぞれの違いを活かしながら、共通の目標に向かってつながっていき、自律的にアクションを起こしていく。この「ムーブメント型チーム」の化学反応こそが新しい価値を生む源泉だと、freeeで働く中で日々実感しています。

”違い”は人々を「分断」するものではなく、むしろ「つなげる」力になる———これからもDEIの価値を体現するチームの一員であり続けたいと、本記事を書きながら強く思いました。