働く人をよく知るため、義務以上にサポート「体調“ワカル”アンケート機能」開発の裏側
マジ価値サマリー(この記事のポイント☝️)
2024年7月、健康診断やストレスチェックにおける回答進捗管理や電子申請などの業務を効率化する「freee人事労務 健康管理」における「体調“ワカル”アンケート機能」の提供を開始しました。
この機能をリリースするにあたり、プロダクト開発チームは、社内の労務担当者へのヒアリングや、テストを実施。どのように社内テストが行われたのか、そこの気づきからの今後の展望をお届けします!
従業員の体調変化に気づくための「体調“ワカル”アンケート機能」
──最近リリースした「体調“ワカル”アンケート機能」について教えてください。
内木:
まず、「freee人事労務 健康管理」についてお話します。このサービスは、安全衛生の義務業務も、その先の人材定着も、誰でも手間なく簡単に行えるサービスです。
現在、企業は社員数が50名を超えると、労働安全衛生法に基づいて健康診断・ストレスチェックの労働基準監督署への報告などが義務付けられています。2025年1月1日からは新たに「定期健康診断結果報告書」「ストレスチェック」の電子申請も義務化されます。
こうした対応は、総務や労務を担当する方々にとって、大きな負担となります。また、東京商工会議所のデータによれば、中小企業において人手不足でお困りの企業は約7割おり、なおかつ大手企業と比較すると採用が難しいという状況もあります。今いる従業員に長く働いてもらう人材定着が、より重要になってきているのです。
そこで、時間のない総務や労務の方でも、簡単に義務対応・人材定着が行える本サービスをリリースしました。
内木:
ただ、義務となっている年に一度のストレスチェックを実施するだけでは、しっかり従業員のコンディションをチェックできるとはいえません。ストレスチェックのタイミング以外で、コンディションを崩していることもありえます。
また、57問や80問といったストレスチェックを毎月実施するのも、回答する従業員としては大きな負担になります。そこで、もっと手軽に受けられるサーベイがあればいいのでは、と考えていました。
「freee人事労務 健康管理」の利用傾向を見てみると、想定していた以上にストレスチェック機能が使われているとわかりました。メンタルヘルスは社会的な問題ですし、身近な問題でもあることから関心も高いのではないかと。
──その問題に焦点をあてた機能を?
内木:
そうですね。法定項目ではない従業員アンケートやサーベイを実施している中小企業は、実際のところあまり多くはありません。そこで、想定している課題は本当にあるのか、ソリューションは妥当なのかを確かめるために、定量調査やインタビューを実施しました。
調査も含めて機能の検討を、2024年1月から4月ごろにかけて進めて、その後3ヶ月ほどで開発。2024年7月に、企業が従業員のコンディションにすぐ気づき、離職を防ぐアクションにつなげるための機能として「体調“ワカル”アンケート機能」をリリースしました。
中小企業が使いやすくなるよう、まずは自社で事例をつくることに挑戦
──機能をリリースしてみていかがでしたか?
内木:
リリースはしてみたものの、法定項目ではない義務化されていない従業員アンケートやサーベイを実施している中小企業は、実際のところ、そこまで多くはありません。そこでまずは自社で事例をつくることで、これから使い始めるユーザーさんを後押しできないかと考えました。そこで、社内の関係者の皆さんに「体調“ワカル”アンケート機能」を使ってもらえませんか!と直談判しに行きました(笑)
木村:
リリース前から話は聞いていましたが、直談判を受けて、改めて使ってみようということになりました。もともと、社内で別のサーベイは定期的に実施していたのですが、課題もありました。
実施するようになったきっかけは、新型コロナウイルスの流行です。リモートワークが始まり、チームメンバーの様子がなかなか見えにくくなったので、把握のために実施を始めました。
最初は週1回ペースで実施していて、しばらくしてから2週間に1回のペースに変更になりました。ただ、実施していても回答率が20%前後と、良い数値とはいえませんでした。回答率が上がらないことで、「サーベイをやめようか?」という話が出たこともあります。
──既存のサーベイにも課題があったのですね。
木村:
そうですね。「体調“ワカル”アンケート機能」は、専門家のアドバイスも入れてつくった設問が6つあるので、精度が高い回答が得られるのではという期待もありました。ただ、本当に回答してもらえるのかという懸念もありましたし、ツールを置き換えるのも工数がかかります。全社で置き換える前に、部署単位で小さくトライアルできるのは助かるなぁというのが率直な感想でした。
社内で対象を限定し「体調“ワカル”アンケート機能」のオペレーションを経験
──テストはどのように実施を進めたのでしょうか?
簑輪:
内木さんから相談をもらって、自分が組織開発を担当している部署でテストすることになりました。
組織開発を担当している立場としては、メンバーがワクワクできるようにする、生産性を上げる、情報流通をスムーズにするなどといったことが求められます。今回のサービスは、これらの課題を知ることに役立つと感じて、テストに関わらせてもらうことになりました。
担当している部署は、160人ほどの規模の組織になります。そこから、テストの対象をさらに絞り込んで50人の規模で実施することにしました。
内木:
想定ユーザーの従業員数が50〜300名ほどなので、近い規模感の組織でテストしてきちんとワークするのかどうかを確かめたかったため、まずは少人数の規模でテストをしました。自分も同じ部署に所属しているので、メンバーだけでなく、マネージャーの反応や感想を近くで感じやすかったのはありがたかったですね。
──実施対象を絞ったあとは、どう進めていきましたか?
内木:
木村さんに対象の従業員リストをもらってセッティングし、運用ルール設計や権限設計、従業員へのアナウンスなどの運用は自分と簑輪さんで行いました。
このセッティングや運用が想像以上に難しく...。自分でオペレーションを経験してみたことで、ここが肝だと気づきました。たとえば、回答の閲覧権限を誰が持っているか。この回答は直属の上司に見られるのかどうかで、本音を引き出せるかが変わってきます。
また、ストレスチェックは労働安全衛生法で項目や条件が明確に決まっていますが、一般的にサーベイは明確に定められておらず、それぞれの会社で作成や設定が必要になるため、セッティングが欠かせません。とはいえ、サーベイを初めて実施する会社は、どう実行したらいいのかがわからないので、freeeが手順をわかりやすく伝えることが大事だとも実感しました。
──実施前にもかなり発見があったんですね...!「体調“ワカル”アンケート」の結果を見たときはどんな心境でした?
木村:
既存のもともとやっていたサーベイも同時に実施していたのですが、「体調“ワカル”アンケート」と比較して、回答率に約2倍のひらきがありました。自社のプロダクトだから回答した、という面はあると思いますが、それでも驚くほどの回答率でしたね。
内木:
ふだん使っているfreee人事労務の画面にお知らせが出てくるので、通知に気付きやすかったのでは、など仮説をいくつか発見できました。
個人的には、回答率がリアルタイムで増えていくことに対する喜びが感じられて、管理者側の感情がよくわかりました(笑)
ほかにも、懸念のある従業員に関するアラートを出す機能は、マネージャーの目線からしても実態と合っているものだと確認できて手応えにつながりました。
簑輪:
「体調“ワカル”アンケート」の結果データを見て、かなり体感と近いと感じました。ヒアリングしたところ、問題を抱えていることが判明したこともあり、精度の高いサーベイになっていると思います。
木村:
あとは、サーベイを行う上での説明が大事だと改めて感じました。たとえば、このサーベイはなんのために実施するのか、回答結果は誰が見るのか。設定だけではなく、対象となる人たちが安心して回答できるようにきちんと説明することとセットでの実行が大事ですよね。
内木:
説明が大事だというのは、テスト前はなかなか実感が難しい観点だったので、社内でテストしてみて本当によかったです。また、「体調“ワカル”アンケート」に回答した従業員からの意見を聞けたのも助かりました。ユーザーインタビューで導入企業の担当者の声は聞けますが、回答している従業員の声を直接伺うのはどうしても難しいので...。
「体調“ワカル”アンケート」のテスト結果からアラートにつながった当事者と話す機会もあったんです。ちょうど実施の時期に不安が蓄積していたけれど、アンケートにコメントを書く欄があったから、吐き出すことができたんだ、と教えてもらいました。
経験が困難な労務の現場に触れ、体温あるフィードバックを得られた
──社内テスト後、どのような発見があったのでしょうか。
内木:
freeeでは社内で自社プロダクトを使うケースが多いんですが、その際に発見する問題が、自社ならではのものなのか、スモールビジネスのお客様の汎用的な問題なのかを識別するのが難しく、悩むことがあって。今回は、対象の組織を絞ってテストしたので、スモールビジネスのユーザーさんと近い景色を見れたのは良い点でしたね。
今回、マネージャー陣の反応もよかったのですが、まだ回答結果を自動で通知する機能がなかったので、見てもらうためには直接声掛けが必要でした。ここはプロダクトの伸びしろだと考えていて、今後は配信後にメンバーの回答結果が自動で通知されるようになると、業務のなかで自然とチェックできるようになるのではと考えています。
木村:
「体調“ワカル”アンケート」を実施した後に、「結果が出たので、見に行ってください」とマネージャー陣に伝えても見に行かないので、回答結果の見せ方のアップデートも含めて、改善には期待したいところですね。
内木:
以前から、木村さんにはずっと課題を教えてもらっていたのですが、今回のテストでオペレーションを体験したことで、労務業務を解像度高く理解できるようになりました。
日々、お客様からさまざまなフィードバックをいただきますが、基本的には文字で情報が整理されてから届くので、課題の温度感が、何層かフィルターを通ってから届きます。
今回は喜び・怒り・不安といった自分の感情を通して課題を感じられたので、本当の意味での業務理解につながったように思います。
──体温あるフィードバックが得られたことも大きかった?
内木:
はい。社内からだと、ポジティブなフィードバックも含めて届くのも大きかったですね。プロダクトに対するフィードバックはどうしても「〇〇ができない」といったネガティブな内容が多く、ポジティブなものはなかなか届きません。
また、今回のプロダクトの開発体制はグローバルになっていて、エンジニアチームは国内にいないこともあり、ユーザーの声が届きにくい状況にありました。フィードバックをそのまま共有しても伝えるのが難しい状況のなかで、木村さんへのインタビューを同時通訳で行ったんです。
日本のメンタルヘルスについてや、業務フローや休職対応などを直接聞くことができて、日本にいないエンジニアチームも解像度がかなり上げられたと思います。こうした協力はなかなか社外にお願いできないので、これも社内で協力して開発を進められてよかった点ですね。
お客様に充実したサポートを届けるために、プロダクトと運用のバランスに向き合う
──協力する側の2人は、社内でのプロダクト利用を振り返ってなにか発見はありましたか?
木村:
労務領域は、会計などと比較すると、従業員からは関わりにくい領域です。エンジニアから「労務の業務を経験したい」と相談をもらうこともありますが、取り扱うのが機密情報なので、なかなか迎え入れもできない状況でした。その観点でも、今回のテストは労務の現場に触れてもらういい機会になったと思います。
簑輪:
「プロダクトで解決することと運用でカバーすることのバランス」も、1つの重要な視点でしたね。
組織開発では、日々さまざまなことを実行します。オフィスの席替えや、新しい制度の設計、今回のような自社プロダクトのテストもある。その際に、運用のことをどれだけ考えるか?という視点があります。組織は変数も多く、日々変化していくことでもあるので、どの程度プロダクトに反映していくのか、それとも運用でカバーしていくのかも、難しいポイントでした。
フリー社には、ユーザーにとっての本質的な価値をチームとして届けるために大切にしたい行動指針があって、そのなかに「アウトプット→思考」という指針があります。
完璧じゃなくともまずはアウトプットしてみてからブラッシュアップを重ねていくことを重視する指針なのですが、この指針と運用を考えて準備することのバランスが難しい。社内テストを進める上でも、このバランスをどうとるのかは非常に重要だと思います。
──今回のテストによって得られた学びや、今後挑戦しようとしていることはありますか?
内木:
一番の学びは、誰が回答結果を見ることができるかの情報統制が重要だということ。こうした不安要素こそプロダクトで担保できるように、開発を進めています。
プロダクトの改善以外にも、マーケティングへの反映も大事だと考えています。プロダクトの価値がお客様に伝わりきっておらず、使い始められていないという課題もあります。
そのなかで、まず自社で1つ目の成功モデルをつくれたのは大きいこと。「こうしたら使えますよ!」と自信をもって伝えることも大切なので、カスタマーサクセスやセールスの担当とも協働しながら、体調“ワカル”アンケート機能があることで中小企業の当たり前がどう変わっていくのかを広めていこうと思います。
あなたにとっての「マジ価値」とは?コーナー
今回、話を聞いた「体調ワカルアンケート」の改善に取り組むチームに、あなたにとっての「マジ価値」を一言で書いてもらいました。マジ価値とは、短期的な視点に留まらず、中長期的に考えた時に本当にユーザーにとって、社会にとって価値があること。それぞれにとってのマジ価値は、こちら!