【一晩で売上18万円】書店イベントに申し込み殺到!104名のお客様が参加
2023年4月に東京・蔵前に開店した「透明書店」。売上などのリアルな数字を、『お金まわり公開記』として発信しています。開店以来赤字続きという厳しい現状の中、どんなことに悩み、どんな工夫をしているのでしょうか。今回も、聞き手はライターの安岡晴香さん。透明書店の代表を務める岩見俊介が、赤裸々にお話しします。
店内がにぎやかに! 売上は前月比160%超
――10月の数字がまとまりました。さっそく実績を聞かせてください。
岩見:
今月は、ちょっと明るい話ができそうです。売上は9月を37万円ほど上回り、合計973,732円でした。詳しくは、10月末時点の損益計算書(P/L)を見てください。
岩見:
主要項目だけ抜き出してみますね。
岩見:
ジャンルごとの売上実績と月次目標はこちらです。
岩見:
レンタルスペース事業は0円でしたが、他の項目は、目標に沿った数字を実現することができました。特に好調だったのはイベントです。また今月から、飲食事業の売上が入ってきました。
――では、順を追って見ていきましょう。書籍売上は、9月より20万円近くプラスですね。思い当たる要因は?
岩見:
10月は、単純に入店客数が増えた実感がありました。涼しくなり、過ごしやすい気候だったからでしょうか。
実施した主なフェアは、2つあります。1つは「この2冊、いっしょに読んでみよう」フェアです。
岩見:
この企画は、くらげ会販売管理のメンバーが発案してくれたものです。過去の販売データから、「ひとりのお客様が2冊同時に購入された例」を探し、興味深いと感じた組み合わせを抜粋して陳列しました。実際には、セットではなく1冊だけ購入される方がほとんどでしたが、フェアとしては一定の手応えがありましたね。
もう1つは、出版取次会社のトーハンさんからご提案いただいた、「散歩のすゝめ」というフェアです。
岩見:
トーハンさんは、透明書店がどういう本を仕入れているのか、情報として把握しています。僕らが売上に悩んでいるのを見て「もう少しライト層にも本を届けたらいいのでは」とご提案くださり、今回のフェアにつながりました。
最初は動きが鈍かったのですが、遠井店長が手書きで簡単なPOPを置いたところ、少しだけ動きが出るようになりました。
――freee社内のメンバーや、取次会社からもアイデアをもらっているんですね。
岩見:
はい。いろんな声を取り入れながら、地道な変化を繰り返しています。
そういえば、お客様の来店動機をリサーチしたくて、店頭アンケートも実施しました。結果は、透明書店を目的に来店してくださった方は全体の4割弱。逆に、透明書店をまったく知らず観光で立ち寄ったという方が、3割強。あとは近隣の方が2割、その他が1割という構成でした。
岩見:
やはり、観光でふらっと来てくださるお客様も多いんです。バランス感ある仕入れが大事だと再認識しました。
独立系書店というだけで、どうしてもハイコンテクストでとっつきにくい雰囲気が出てしまうと思います。透明書店らしさは残しつつも、変なハードルを感じさせない書店でありたいです。
――ちなみに今回、売上は良好ですが、原価率が76%と異様に高いです。何があったのですか?
岩見:
これには事情があります。実は、11月に実施するフェアに向けて、先に書籍をまとまった数仕入れたんです。つまり原価のみ、先に10月分として計上されている状況。売上は11月に反映される予定なので、利益率で見ると10月・11月はイレギュラーな数値になります。
イベントに計104名が参加。過去最大の盛り上がりに
――続いて、イベントについてお伺いします。実施回数は計4回、売上は28万円超と絶好調でしたね。
岩見:
中でも、過去最大に盛り上がったイベントがありました。10月19日に行われた、ドン・ノーマン著書邦訳出版記念イベント「『より良い世界のためのデザイン』ー我々が対峙する新たな課題とチャレンジー」です。
『より良い世界のためのデザイン』は、デザイナー界隈で注目度が高い新刊でした。イベントの情報を解禁したら、SNSで一気に拡散され、会場用チケット25枚は発売開始早々に完売。結局、オンラインも含めて合計104名の方にご参加いただけました。イベント単体で、売上は179,630円でした。
岩見:
当日は本書の翻訳者3名が登壇し、論点を紹介しつつ、パネルディスカッションを実施。書籍自体はアカデミックで堅めな内容なのですが、イベントは柔らかい切り口で展開され、心地いい時間になりました。
――そもそも、なぜ透明書店でこのイベントをやることになったのですか?
岩見:
実は、翻訳者の伊賀聡一郎さんが、freeeのデザイン系の部署にいる人間と知り合いだったんです。伊賀さんが「本を出すから、出版記念イベントができる場所を探している」と言っていたそうで、透明書店につないでいただきました。
いつものイベントより学び要素が強い内容でしたが、「こういうイベントもお客様に届くんだ」という発見につながりました。
岩見:そのほか、10月26日には、蔵前にアトリエを構えるジビエレザーブランド「MAKAMI」さんとのイベントを実施。同時にポップアップとして、店頭に商品を置かせていただきました。
そして10月27日と30日には、先輩本屋さんに学ぶイベント「素敵な本屋のつづけ方」 を開催。株式会社書泉の代表・手林大輔さん、不動前にあるフラヌール書店の店主・久禮亮太さんに、個性ある書店の作り方をお聞きしました。
――10月27日のイベントからは、ワンドリンク制を導入したんですよね。
岩見:
そうなんです。27日以降、イベントの参加者には、お好きなドリンクを1杯ご購入いただいています。
ちなみに、受付とドリンクのご用意をワンオペでやるのが結構大変で、店内の動線をあれこれ考えました。今までは、準備中にレジを入口付近に移動させ、特設の受付を作ってお客様をお迎えしていたんです。でもこれだと、ドリンクカウンターが店内奥にある関係で、2名のスタッフが必要になってしまう。だからレジを移動させるのをやめ、受付も、店内奥のカウンターで行うことにしました。
――無事にワンオペで対応できていますか?
はい。ただ、お客様が来店されたときに、受付がどこにあるのかわかりにくいのがネックです。戸惑わせてしまわないよう、来店されたらすぐに挨拶をして、レジにお越しくださいと伝えていますが……より良い方法がないか、引き続き考えます。
もっとドリンクを売りたい!“魅力的な見せ方”を模索中
――この流れで、飲食事業についてお聞きしたいです。今月の手応えは?
岩見:
飲食の売上は18,021円ということで、目標の20,000円に近い数字を出せました。イベントを行うことで、チケット代だけでなくドリンクの売上も立つのは、経営面でとてもありがたいことです。
ただ、イベントをしていない通常営業日は、ドリンクがほとんど売れません。レジにメニューを置いたり、店外に「ドリンク販売しています」という掲示を出したりはしているのですが、実際のところお客様にはなかなか伝わっていませんね。
そこで考えたのが、透明の冷蔵庫をレジ台に置くこと。ひと目見て、ドリンクがあることがわかるようにしたいんです。今は、良さげな冷蔵庫を探しているところです。
――レジ台に冷蔵庫! 楽しみです。ちなみにメニューは増えましたか?
岩見:
「東京リバーサイド蒸溜所」のクラフトジンを追加することが決まりました。蔵前にあるエシカル・スピリッツ株式会社が、廃棄素材を使用して作ったジンです。
実は、先ほど話したジビエレザーのMAKAMIさんに、「透明書店で何か飲みたいものはありますか?」と聞いてみたところ、このジンを提案いただいたんです。ちょうど僕らも気になっていたので問い合わせてみたら、取り扱いをご快諾いただけました。今後も、透明書店に関わってくださる方の声を反映させながら、メニューを充実させていきます。
――販売管理費についても聞きたいです。10月の消耗品費は、76,362円とやや多めの印象です。何か大きな買い物をしましたか?
岩見:
飲食まわりで、水切りカゴなどの必要品をちまちまと買いました。あとは……そういえば、看板を買ったのでした。
今までは、透明なイーゼル型の看板を使っていました。でもあれは、店舗の正面まで来ないと見えなくて、集客効果があまりないことに気づいたんです。そこで、「本」と大きく書かれた光る看板を置くことにしました。
価格は5万円。大きな額でしたが、10月に来店客数が増えたのは、看板のおかげかも知れないですね。大通りを歩く皆さんに、本屋があることを伝えられるようになりました。
遠井店長の選書スキルで、イベント出店大成功
――最後に、外部イベントへの出店について聞かせてください。16日〜18日に、浅草公会堂で行われた「ドンデンガエシEXPO」に参加していましたね。
岩見:
実は、僕が前職で知り合ったアートユニットがこのイベントに携わっているんです。それでこのたび、透明書店の出店を打診してくれました。
詳しく聞いたところ、出店料は無料。販売手数料もタダという、ノーリスクな条件でした。しかも3日間のイベントのうち、2日間は透明書店の定休日。freee社員が準備や接客を手伝えば、透明書店の営業にもそこまで影響は出ません。浅草公会堂なら徒歩10分程度で行けるし、断る理由もないので、喜んで参加することにしました。
――伝統芸能のイベントということで、テーマに合わせた選書が見事でした。
岩見:
ありがとうございます。遠井店長が、イベントのために選書してくれたんです。透明書店にもともとあった書籍のほか、テーマに合わせて新たに発注した書籍も持っていきました。伝統芸能にドンピシャなテーマの本もあれば、あえて少しずらした本もあるという感じで、僕も見ていて楽しかったです。
岩見:
おかげで売上は好調。最初は「3日間で5万ぐらいいけばいいかな」と思っていたところ、82,032円という実績になりました。
遠井店長は普段から、透明書店の店頭に並べる本を自分で選んでいます。その独自の選書スキルがこうやって活きるんだなと思うと、なんだかうれしい気持ちになりましたね。これからも、条件やタイミングが合えば、外部イベントに出してみようと思います。
――透明書店を多くの人に知ってもらうチャンスにもなりますもんね。最後に、11月の意気込みを教えてください。
岩見:
11月1日から、「ミステリーライブラリー」という講談社さんの施策を行います。13名のタレントがおすすめするミステリー小説を、2週間限定で販売。購入者にはオリジナルブックカバーをプレゼントするという座組みです。新しいお客さんが来たり、売り上げが増えたり、きっといい手応えがあるのではと期待しています。
また、棚貸し事業にも動きが出るかなと思います。今は、そもそもどんな方針で借り主を集めるのか、資金はどうするのかなど、いろいろ迷っているところです。このあたりは、来月の取材で、具体的にご報告したいと思います。
そして11月11日は、透明書店の会社設立日。もう1年経つなんて、あっという間です……。少しでも早く、黒字化しなくては。焦りと楽しさを原動力に、引き続き頑張っていきます!
透明書店のあゆみ
10月の振り返りメモby遠井店長
10月は、気候のおかげか、新しい看板の効果なのか、お客様が増えました。店内がにぎわってきて、ほっとできた月でした。参加者100名を超えるイベントを実施できたのも印象的です。
ドリンクは、今はイベント以外のタイミングではほとんど購入されていません。どうしたらもっと売れるのか、見せ方や、店内の環境を模索しています。好きな飲み物を楽しみながら、本の世界に没頭したり、誰かと話したりできる、そんな空間を作っていけたらいいですよね。
また寒くなるので、お客様の数がどうなるのか不安ですが、「読書の秋」に期待しながら工夫を続けて参ります。お近くにお越しの際は、ぜひ立ち寄ってみてくださいね!
読書の秋に乗じて、赤字から抜け出せるのか。11月の「お金まわり公開記」もお楽しみに!
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