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9割が外国人観光客のホステルに、街のみんなが集う。「開かれたラウンジ」が結ぶ人と人のつながり

東京・蔵前に店舗を構える、透明書店。街で愛され続けるお店をめざして、日々知恵を絞っています。そのヒントとして、近隣でスモールビジネスを営む先輩方にお話をうかがうイベント、「蔵前のスモールビジネスと透明書店」。
11/26(日)に登壇したのは、「Nui. HOTEL & BAR LOUNGE」を企画・運営する、石崎嵩人(いしざきたかひと)さんです。本記事では、イベントの一部を編集してお届けします。


床を這っているマイクケーブル

友人4人で会社設立。最初は旅行事業をやる予定だった

岩見:
今日は、株式会社Backpackers' Japan取締役、石崎嵩人(いしざき たかひと)さんにお越しいただきました。石崎さんたちが経営されている「Nui. HOTEL & BAR LOUNGE」は、カフェ・バーラウンジを兼ねるホステル。蔵前でひときわ 賑わっているスポットでもあります。

にぎわうNuiラウンジ
(Nui.さんご提供)

透明書店も同じ蔵前でお店を始め、半年と少しが経ったタイミングです。もっと愛されるお店になるためのヒントをもらえればと思い、この日を楽しみにしていました。石崎さん、どうぞよろしくお願いします。

石崎:
よろしくお願いします。透明書店さんは「透明」という言葉通り、売上などを包み隠さずにSNSで公開していますよね。今日は、僕もリアルなお金の話ができるように、準備をしてきました。

岩見:
おお、それは楽しみです。

笑顔を見せる石崎さん

岩見:
ではさっそくですが、石崎さんから改めて自己紹介をお願いできますでしょうか。

石崎:
はい。僕たち株式会社Backpackers' Japanは、宿泊・飲食メインで、いくつかの事業を展開している会社です。東京と京都でゲストハウスやホステルを計4軒、それからカフェやロースタリー、最近だとブルワリーやキャンプ場の運営もしています。おかげさまで、設立13年目を迎えました。

今日ご縁をいただくきっかけとなった蔵前の「Nui. HOTEL & BAR LOUNGE」は、2012年9月に蔵前に開業した、当社にとって2号店にあたるホステル。2階〜6階は100名ほどが宿泊できる施設になっていて、1階にはホステルのレセプション&ロビーとラウンジがあります。昼間はカフェ、夜はバーラウンジとして利用可能。ホステルに宿泊する多国籍のお客様や、地域住民の皆様が集う場所になっています。

Nuiのwebサイトより、ラウンジと客室の様子
『Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE』webより引用

岩見:
あのラウンジ、いつ見ても賑わっていますよね。「蔵前にこんなに人っていたんだっけ?」と思うような、特徴的な場所です。ホステル2号店ということですが、1号店はどこにあるのでしょうか?

石崎:
1号店は2010年10月、上野の隣にある入谷駅そばにオープンしました。当時木造築90年の古民家を改装してつくった「ゲストハウスtoco.」という名前のゲストハウスです。

岩見:
築90年。すごいです。そもそも石崎さんたちは、なぜ宿泊事業をやろうと思ったのですか?

石崎:
会社の成り立ちをかいつまんで話しましょう。当社は、大学時代の友人4人で立ち上げた会社です。4人で一緒に暮らしながら、日々事業についての話をしていました。はじめは宿泊事業ではなく旅行事業で起業する予定でした。旅行を企画して参加者を募る、「募集型企画旅行」をやろうと思ったんです。

岩見:
おもしろそうです。

石崎:
ただ、企画旅行は旅のあり方を規定してしまうサービス。自分たちがやりたいことって本当にこれなのかな、と何度も反芻するうちに「宿という空間をつくることで、自分たちにとっての旅は表現できるんじゃないか」という結論に至りました。それも一般的なホテルではなく、ゲストハウスやホステルというかたちで、活気ある旅行者が行き交う場をつくりたい。そんな思いで事業計画書を作成。資本金を貯めて会社を設立しました。

蔵前について話す石崎さんと岩見

岩見:
なるほど。1号店の「toco.」を開いて、手応えはいかがでしたか?

石崎:
すべり出しはまずまずでした。しかし、開業から半年経たないうちに、東日本大震災が発生したんです。突然お客様がまったく来なくなり、焦りました。次第に状況が元に戻ってきた頃、僕らのリソースにまだ余裕があったこともあり、2号店の話が持ち上がりました。

ホステルのバーラウンジで、宿泊客と近隣住民がつながる

岩見:
その2号店が蔵前の「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」ですね。構想段階から、バーラウンジ併設という業態にこだわったのですか?

石崎:
その通りです。背景には1号店での経験があります。実は「toco.」にはバーがあって、宿泊者に限らず、誰でもお酒を飲みに来られるようになっています。営業する中で見えてきたのは、バーを目当てに近隣に住む方たちが集まってきて、宿泊客の方と仲良くなるということ。たとえ言葉が通じなくても、国籍の垣根を超えて交流し、ときには連れ立って外に出かけていったりするんですよ。

出会うはずのなかった人たちが毎日ここで出会って、楽しそうに過ごしている。そういうシーンが僕らはすごく好きで。だから2号店で、ラウンジというやり方をもっと拡大していきたいと思ったんです。ビジネスとして手応えがあったのも大事な動機ですが、「この光景をもっと見たい!」というシンプルな思いでした。

質問に答える石崎さん

岩見:
素敵です。2号店に、蔵前という場所を選んだ理由は?

石崎:
大きく分けて3つありました。1つめは物件。これが一番大きいかもしれません。1棟貸しで、ラウンジのスペースが大きく取れて、天井高が4.5m。間口が広くて、建物の前は広い一方通行の道路。おまけに隅田川至近。まさにイメージ通りの物件だったんです。なんと江戸時代から続く玩具会社の元倉庫ビルということで、こんな魅力的な場所はほかにないな、と。

2つめは、街の空気感。蔵前っていわゆる「駅前」みたいなところがなくて、穏やかで静か。浅草の喧騒から、いい意味で置いていかれています。その抜け感と、固定された強いイメージがないプレーンさが気に入りました。

3つめは、近隣でホステルが上手く行ってる実例があったこと。僕らよりも先に蔵前エリアでホステルをやっていた会社があったんです。そのスタッフたちに、事業をはじめる前にいろいろと聞きに行ったんですよ。そしたらみなさん仲良くしてくれて、宿のいろんなことを教えてくれて。蔵前は可能性のある街なのだとわかり、安心して「ここでやろう」と決めました。

逆に透明書店は、なぜ蔵前に出店を決めたんですか?

岩見:
僕らも、物件で決めたところが大きいです。候補としては、東京の西側も見ていたし、東急沿線もチェックしていました。50箇所ほどを半年かけて回り、ようやく蔵前でイメージに合った物件に出会えたんです。蔵前は、スモールビジネスが点在していて、キラリと光るお店がところどころにある魅力的なエリア。街の魅力も相まって「ここがいい」と決心しました。

笑顔で話す岩見

初期投資額は1億。でも手元には3,000万しかなくて……

岩見:実際に「Nui.」がオープンしてから軌道に乗るまでには、どれぐらいの時間がかかりましたか?

石崎:
ありがたいことに、かなり早い段階で毎日賑わうようになりました。1号店と同様、カフェやバーに、宿泊客だけでなく街の人も遊びに来てくれるようになって。思い描いていた景色を見ることができました。

岩見:
すぐに賑わうとは、すごいですね。

石崎:
当時は、海外からの旅行者が急増しているのに対して、ホステルのような安価な宿泊施設が少ない状況だったんです。その時代背景も、後押しになりました。

1号店は25名規模の宿泊施設ですが、「Nui.」は4倍の100名規模。事業が一気に拡大し、大変なこともありましたよ。たとえば、創業時のメンバーでは到底回らないのではじめて大規模にスタッフを雇用することになりました。ここから、わからないことだらけで。

「スタッフって何人で回すのが適切なんだっけ?」という大枠の話から、給与の決め方、福利厚生、残業代などの雇用体制に関わる話もすべて手探り。慣れない中でなんとかスタッフを増やし、今では20名以上が働いています。

お客さん後ろ姿

岩見:
20名を雇うとなると、人件費の面でも考えることが多いですよね。この流れで、ちょっとお金の話に踏み込んでもいいですか? 差し支えなければ、「Nui.」の初期投資額を知りたくて……。

石崎:
約1億円です。元倉庫を1棟まるごとリノベーションするため、結構な費用がかかりました。ただ、当時は手元のお金は3,000万円しかなく、7,000万円足りない状況。まだ融資も決まっていない中、先に契約がスタートしました。

岩見:
ええっ。

笑顔を見せる石崎さんと岩見

石崎:
投資家にかけあってお金を出してもらうことも考えたのですが、好きに運営できなくなる可能性があるのが怖くて。資金をどうするか迷いつつ、でも工事はもう進んでいる、みたいな状況。最終的には、仲良くしてくれていた先輩経営者や親族からの融資でなんとかまかなえたのですが、今思えば無茶苦茶な進め方ですよね(笑)。

岩見:
ちょっとヒヤヒヤしますね。早い段階から集客に成功されたということでしたが、売上もやはり初年度から好調でしたか?

石崎:
オープン翌年にあたる2013年の段階で、年間利益2,500万円、その後2016年頃には、年間利益4,000万円という数字が出ていました。毎月300万円以上プラスになっている計算です。「Nui.」に限らずいつも、3年〜7年で初期投資分を回収できるよう事業計画を立てています。その意味では、毎月200万円の利益を出せるような目線でいたので、かなり順調だったといえます。

ただ、コロナ禍はやはり大変でした。
それまでは、売上比率でいうと宿泊6:飲食4。利益率では宿泊に大きく依存していて、全体をならすと利益率15%程度になるのが基本だったんです。でもコロナ禍で、頼りにしていた宿泊の売上が半分以下に。毎月数百万の赤字だったので、キャッシュが少しずつ減っていく状況がとにかく不安でした。一方で宿泊に変わって飲食が売上を伸ばしてくれた時期でもありました。その成長は今にもつながっています。

手振りをつけ話す石崎さんとそれを聞く岩見

岩見:
コロナをうまく乗り越えてきたわけですね。最近はインバウンド需要も復活しました。東京の宿泊費が跳ね上がっている印象もあります。

石崎:
たしかに今の東京は、宿泊バブルといった状態。うちも、コロナ前はドミトリーが1人3,000円ぐらいだったのですが、今は東京の相場に合わせて4,500円ぐらいまで上がっています。宿泊者の9割は海外からの旅行者なので金額のインパクトは少ないかもしれませんが、日本人の若者が泊まりにくい状況ですよね。いまは稼働率も高いですし。

岩見:
稼働率も回復されたんですね。

石崎:
2014年頃は、ホステルが少なかったので、3ヶ月先の予約表までずっと9.5割以上が埋まっているような状況でしたよ。今以上に需要が殺到していました。

岩見:
なるほど。あの……ここまで聞いたら、家賃がすごく気になるのですが。

石崎:
ちょっと明言を避けつつ想像のつく話で言うと、坪賃料で7,000円を切っています。契約時のオーナーが、事業や我々のことを応援してくれていたのもあったんだと思います。蔵前はいま町としてすごく盛り上がっているので、10年前に借りたからこその価格、というのもありますね。

岩見:
透明書店の坪賃料は、約12,000円です。比較すると、かなり好条件ですね。

お話を聞くお客さんの後ろ姿

日本各地の魅力的な街にも宿をつくっていきたい

岩見:
石崎さんの中で、今後に向けての課題があれば教えてください。

石崎:
ここにきて、宿泊施設を長く続けていくのはすごく大変なことだと改めて感じています。建物は経年劣化でどんどん古くなり、設備再投資が必要なタイミングが出てきて、その度に結構な額が必要になる。しかも今まで通りにそのまま直すのではダメで、今の時代に沿ったものに変えていかなくては、古びてしまいます。

街にまだホステルが少なかったときはよかったのかもしれないけど、今は個性的なホステルもたくさんあるし、ビジネスホテルもある程度安く泊まれる時代。そんな中で選んでいただけるのは、一体どんな宿なのか。頭も神経も使って考え続けなくてはなりません。

岩見:
時代に合わせたアップデートが大切なんですね。最後に、これから新しく取り組んでみたいことはありますか?

石崎:
個人的にやりたいと思っているのは、地方展開のホテルです。日本には、魅力的な街がたくさんあります。近隣に在住の方と話す機会も多いのですが、「この辺りはいいお店がいっぱいある。ただし、宿はない」っていう状況ばかり。ホテルチェーンがスケールメリットを享受している状態だと思いますが、地方の街中にも、個性的でいい宿はやっぱり必要だと思うんですよ。大きくなくてもいいから、ちゃんと良い宿があれば、人が集まる。僕たちにできるスケールで、けど大規模なホテルチェーンの提案とは違った「地方都市における良いホテル」。そのあたりを、ちょっと探っていきたいなと思っているところです。

岩見:
楽しみにしています。今日はリアルなお金の話まで教えていただき、ありがとうございました。

石崎:僕らは、先輩たちにたくさんのことを教わってきました。だから今度は自分たちが、経験してきたことを包み隠さず伝えていきたいと思っているんです。岩見さんにとって、何かヒントになる部分があったのならうれしいです。


対談後には、スモールビジネスに興味がある参加者の皆様から、いくつかの質問が寄せられました。終始、和気あいあいと話が弾むイベントでした。

入口扉から見えるイベントの様子

透明書店では引き続き、さまざまなイベントを開催します。先輩書店にお話を聞く「素敵な本屋のつづけ方」や、ご近所の先輩経営者に公開相談をする「蔵前のスモールビジネスと透明書店」。そして“稀人ハンター”川内イオさんをモデレーターに迎え、気鋭のスモビプレイヤーからリアルな体験をうかがうトークイベント「稀人たちのエピソードゼロ」など、盛りだくさんのラインナップ。毎月第2、第4木曜には、俳句・短歌を楽しむ句会も開催しています。X(Twitter)公式アカウントで随時告知をしているので、ぜひチェックしてみてください。

取材・執筆:安岡晴香
ライター・編集者。広告代理店、総合出版社勤務を経て独立。ウェブや雑誌で主にインタビュー記事を担当している。
撮影:芝山健太 デザイン:Samon inc. 編集:株式会社ツドイ

 

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中央に「透明書店バックヤード」のタイトルと本が画面中に散らばっているキービジュアル。

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