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【売上公開】オープン2ヶ月、初の棚卸しで在庫データが合わず…「まさか万引き?」

蔵前に店舗を構える「透明書店」。店名の「透明」という言葉が示す通り、さまざまな情報を赤裸々に発信中です。本連載『お金まわり公開記』では、毎月の経営状況を大公開。

今回の記事では、5月の売上や利益について明らかにしていきます。聞き手はライターの安岡晴香さん。透明書店の代表を務める岩見俊介が、取材に答えます。
(4月の実績公開記事はこちら)

目標の「書籍売上100万円」は達成ならず。4月の好実績はオープン特需だった?

――今月もよろしくお願いします。5月の数字が締まりましたが、経営の調子はいかがですか?
 
岩見:
結論から申し上げると……4月と比べてかなり苦戦しました。4月は8営業日しかなかったなかで130万円を売り上げたのですが、5月は21営業日あったのにその数字を下回っています。
 
5月末時点の損益計算書(P/L)を見てもらいましょう。

損益計算書
5月PLの全体

 岩見:
「売上高−売上原価」で売上総利益が出て、そこから人件費や家賃などの「販売管理費」を差し引くことで「営業利益」が見えます。わかりにくいと思うので、今回も主要項目を抜粋してみますね。

PL主要項目のグラフ
①売上高¥1,006,467 ②売上原価¥798,010 ③売上総利益¥208,457
④販売管理費¥720,238 ⑤営業利益¥-511,781

 ――売上は、1,006,467円ですね。たしかに4月よりも下がっています。 

岩見:
5月の目標は「書籍だけで売上100万円を超える」でした。PLの売上高だけを見ればギリギリ100万を超えていますが、この数字にはグッズやイベントの売上も含まれています。なので、残念ながら目標達成ならずです。

――なるほど……。書籍だけだと売上はいくらだったんでしょうか?

岩見:
91万円台でした。グッズ、イベントの売上を含めた割合は以下の通りです。

売上内訳の円グラフ
書籍売上¥917,340、オリジナルグッズ売上¥64,027、イベント売上¥25,100 

岩見:
これら3つのジャンルの売上を先月と比べてみたのですが、全部右肩下がりでした。 

月ごとの売上比較
4月の書籍売上¥1,061,984、オリジナルグッズ売上¥100,477、イベント売上¥144,000
5月の書籍売上¥917,340、オリジナルグッズ売上¥64,027、イベント売上¥25,100 

岩見:
しかも見逃せないことに、利益率も大きく下がっています。4月の利益率は30%ほどでしたが、5月は20%ほど。
思い当たるのは、イベントを1回しか実施できなかったことです。実は4月はあまりにもバタバタしていて、5月分の提案にまで手が回らず……。唯一実施できた1回も、先方からお声掛けいただいたものでした。

――やはり、イベントは大事ですか。
先月のお話では、書籍の利益率は2割ほどで、グッズの利益率は3割ほど、イベントの利益率は7割ほどとのことでしたもんね。

岩見:
その通りです。書籍の売れ行きはもちろん大事にしつつも、イベントやグッズにもっと注力しなくてはと思います。
 
――来店者数はどうでしたか? 5月はGWもありましたが。
 
岩見:
GW中は街を行き交う人の数が増え、客足も伸びました。休業日をずらして5月3日〜8日まで連続営業したのもいい判断だったと思います。
ただ、月末になるにつれて客足が遠のきましたね。週ごとの売上推移にも現れています。

週ごとの売上推移の棒グラフ
5/1-7:37万円、5/8-14:22万円、5/15-21:16万円、5/21-27:24万円、5/27-31:1万円

 ――本当ですね。初週が明らかに好調で、2週目以降は苦戦しています。

岩見:
オープンの盛り上がりがどんどん落ち着いていった印象です。もしかすると「2週目以降は苦戦した」というより、「4月が特別好調だった」と捉えたほうが妥当かもしれません。かといって、この売上でも問題ナシということにはなりませんが……。どのあたりが標準ラインになるのかは、もう少しやってみてから判断したいですね。

――この数字を見ると、手元のキャッシュ状況についても気になります。

岩見:
手持ちの残金については、まさにすごく気をつけているところです。

5月締めの時点では、現金は646,070円、口座には1,568,373円入っていました。これまで以上にシビアに、仕入れ・返品について考えなくてはなりません。書籍には返品制度があるので、在庫を返せばその分のお金は戻ってきます。かといって仕入れすぎるのは危険。店長と随時状況を確認しながら進めています。 

業務を分担し、「働き過ぎ」はひとまず改善

――そういえば先月は、オープン準備等もあり残業が発生してしまったと言っていましたね。そのあたりは改善できましたか?

岩見:
では、PL表の「販売管理費」を見ていきましょうか。

販売管理費の表
給与手当 ¥248,342、法定福利費 ¥49,968、通信費 ¥50,414、地代家賃 ¥280,000

 ――今月の販売管理費は計720,238円。うち給与手当は248,342円ですね。

 岩見:
5月の給与手当は、標準の支給額を下回りました。というのも4月にバタバタして休日出勤が発生した分、5月は店長にしっかり代休をとってもらったからです。ほかにも、イベントがある日は夜遅くなるから、営業時間を午後からに後ろ倒す工夫もしました。

――なるほど。では店長不在時は、代わりに岩見さんが店頭に?
 
岩見:
はい。むしろ店長がいる日でも毎週1回は僕が店番をしていました。僕が普段の業務をレジに立ちながらやって、店長には品出しや事務作業に集中してもらう、というかたちで。接客しつつ、合間に作業しつつ……だと作業が捗らず、溜まってしまうことがわかってきたんです。営業前後の作業も効率重視で、2人で手分けして30分ぐらいで終わらせるように意識しました。

――2人でやることで負担を減らしたんですね。

岩見:
僕がヘルプ的に入ることは根本的な解決にはなっていないかもしれませんが……店長の勤務改善のために、当面は今できることを積み重ねていきます。

数字を見つめる岩見
  

見えてきたニーズ。売れ筋棚、絵本棚を新設

――書籍の展開について、大きく変えたことはありましたか?
 
岩見:
下旬には、店内中央に「透明書店の人気本」コーナーを設置しました。オープンから1ヶ月が経って見えてきた、売れる本を並べています。お客様からの反応はとても良く、売上も好調です。

岩見:
絵本棚を新設したのも、5月のことでしたね。
 
――絵本。子連れのお客様が多くいらっしゃるんですか?

岩見:
意外と多いんです。開店前は予想していませんでしたが、近くに公園があることともしかしたら関係しているのかもしれません。

絵本棚を作ったきっかけは、何人かのお客様から「絵本はどこにありますか?」と問い合わせをいただいたこと。もともと絵本はコンセプトごとにバラバラの棚に置かれている状態でしたが、一箇所に集めてみたんです。結果、多くのお客様が足を止めてくれるコーナーになりました。

足を止めてくれるといえば、「くらげ副店長」も人気コーナーになっています。
 
――おお、店頭サイネージにいるAIの副店長ですね。

透明書店の「くらげ」の写真
店頭に置かれたサイネージで暮らすくらげ副店長。
キーボードでメッセージを打ち込むと、会話できる。

岩見:
くらげ副店長目的でご来店される方もいるくらいですよ。僕は当初、くらげはお客様にスルーされてしまうのではないかと懸念していたのですが、珍しさにみなさん興味を示してくれます。

今はまだ、存在しない本を誤ってオススメしてしまったり、案内するコーナーが間違っていたりしますが、やりとりを重ねるなかで成長していくもの。来店時には、どんどん話しかけていただけたらうれしいです! 

初の棚卸しでヘトヘトに。在庫が合わないけど…まさか万引き!?

――5月を振り返って、大変だったことは?
 
岩見:
たくさんありますが……棚卸しを初めてやったことですかね。
棚卸しは、実際の在庫がどれぐらいあるのか、システムで把握している冊数と差異があるのかないのかを確認する作業です。正確な販売管理のために、店頭にある本をすべて数えていきました。
 
――店頭在庫すべて。結構なボリュームですよね?
 
岩見:
当日はfreee社員が手伝いにきてくれたので、10人くらいで作業できました。それでも5,6時間はかかりましたね。
効率アップのために社内メンバーが簡易システムを作ってくれて、裏表紙のバーコードを読み込めばカウントしてくれる仕組みになっていました。でも通常の書店では、紙にリストを印刷してペンで印をつけながらマンパワーでカウントするそうです。書店の棚卸しって本当に大変な作業ですよね。
 
――地道な作業ですよね。実際、ズレは見つかりましたか?
 
岩見:
いくつか発見できました。具体的には、システムで2冊あると把握していた本が1冊しかなかったり、システムに登録されてない書籍が店頭にあったり。一瞬、足りない分は万引きかなとヒヤッとしました。ワンオペで回しているから、万引きのリスクを常に懸念していて……。
ただ、チェックしたところすべての在庫に整合性がとれたので、安心しました。4月は販売管理システムが未完成だったため、すべてそれに起因するズレでした。

書店は少数多品種の商売で、何がどれくらいあるのかがつい曖昧になりがち。ですが、手間をかけてでも正しい数字を洗い出すことはビジネスにおいて不可欠です。もっとシステムの精度を上げて、棚卸しの頻度を下げていければと思っています。 

「理想は週に2回」イベントが突破口になると信じて

――5月は苦しい数字になりましたが、今後の展望は?
 
岩見:
ほんとにこのままだとまずいなと焦っています。だからまずはイベントの回数を増やすことに取り組みます。

積極的に「イベントを実施しませんか」と提案していく予定です。もちろん「透明書店でイベントをやりたい」というお声掛けも大歓迎。ゆくゆくは毎週、理想は週に2回くらいイベントができたらと思っています。
 
――いいですね。イベントがあれば、透明書店に来るいいきっかけになりそう。

岩見:
地域や出版業界の方だけでなく、透明書店のコンセプトに共感してくれる多くの方とカジュアルに繋がって、輪を広げてけたらと願っています。もちろん書籍の販売にも引き続き注力しますよ。6月は天気が崩れやすい季節ですが、なんとか数字を回復できるよう店長と協力して頑張ります。

透明書店のあゆみ

透明書店のあゆみの表
営業日数:計29日、売上冊数:計1,107冊、くらげに話しかけた回数:792回、
イベント数:計3本/85名 本の紹介ツイート数:計33回

5月の振り返りメモby遠井店長

透明書店、無事に2ヶ月目を終えることができました。

5月も、新聞記事をご覧になって関西からお友達連れで来てくださった方、透明書店のビジネスモデルを視察に来てくださった企業の方など、たくさんの貴重な出会いがありました。うれしいです。いつもありがとうございます。
 
お客様と交わした会話では「近くで飲みながら本を読めるお店はないか」と聞かれたことが印象的でした。本を読みながらお酒やコーヒーを飲める場所っていいですよね……とっても共感します。透明書店がそういう場になれるよう実際に動き出しているので、続報を楽しみにしていてください。
 
中旬以降、徐々に客足が落ち着いてきたのを感じたのも正直なところ。これからもお客様の反応を見て素敵な本を揃えますので、ぜひご来店ください。お待ちしています。

オープン初月の勢いが落ち着き、不安の色も少し見えてきた5月。しっかり挽回できるのか、6月の「お金まわり公開記」もお楽しみに。

取材・執筆:安岡晴香
ライター・編集者。広告代理店、総合出版社勤務を経て独立。ウェブや雑誌で主にインタビュー記事を担当している。
撮影:芝山健太 デザイン:Samon inc. 編集:株式会社ツドイ

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