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“最高の趣味”として、海のそばで書店開業。「二拠点生活なので、東京から5時間、往復4万かけて通っています」

freeeのグループ企業として蔵前に店舗を構える、透明書店。本屋閉店のニュースが相次ぎ「紙の本が売れない」といわれる昨今、どうすれば本屋を長く続けられるのか日々知恵を絞っています。
そのヒントを得るために“素敵な先輩本屋さん”を招いてお話を聞くトークイベント、「素敵な本屋のつづけ方」。7/21(金)には、岡山にある本屋「aru」の店主、あかしゆかさんをお招きして開催しました。本記事ではその一部を編集してお届けします。


透明書店サイン越しのイベント参加者

東京から約5時間。ゆかりのない岡山の地で書店を開業

岩見:
今日は、あかしさんが経営している本屋「aru」を参考に、書店を続けていくためのヒントを得られればと思っています。ご参加いただいた皆さんにも情報をオープンにすることで、本屋を始めてみたい、あるいはスモールビジネスをやってみたいという人の参考になればという気持ちでこの場をつくりました。あかしさん、どうぞよろしくお願いします。

あかし:
お招きいただき、うれしいです。よろしくお願いします。

スクリーンを挟んでトークする岩見とあかしゆかさん

岩見:
あかしさんとは、透明書店開業のリリースを出した頃に一度お茶をしましたよね。オープンのタイミングで、店舗にも来てくださいました。いつもありがとうございます。

さっそくですが最初にあかしさんから、あらためて「aru」のご紹介をいただけますか?

あかし:
はい。「aru」は、2021年4月に岡山でオープンした不定期営業の本屋です。店主の私は現在30歳で、東京と岡山で二拠点生活をしています。書店が開くのはだいたい月に6日間ほど。海と山のあいだにある穏やかな場所で、ゆっくりとした旅行で訪れる方も多いので、瀬戸内海の波のような穏やかな気持ちになれる本をセレクトしています。

岩見:
二拠点生活のお話や、開業のリアルな経験など、お聞きしたいことがたくさんあります。ちなみに東京から「aru」に行くとなると、どのくらいかかるんでしょうか。

あかし:
東京駅から岡山駅までは、新幹線で3時間半ほど。そこから在来線で最寄りの児島駅まで約30分、さらにバスで約30分です。バスは1時間に1本くらいしかありません。スムーズにいっても5時間弱かかりますね。途中で力尽きたときは、岡山駅で1泊してから向かっています(笑)。

岩見:
長い道のりですね。そもそもあかしさんが岡山で書店をやろうと思った理由は?

あかし:
もともと岡山に縁があったわけではありません。きっかけは、勤めていたIT企業を2019年に退職し、そのタイミングでプライベートでも離婚を経験したこと。それがちょうどコロナの時期に重なり、精神的にきつい時期がありました。

どうにか気分をリフレッシュしなくてはと思っていたところ、岡山で「DENIM HOSTEL float」というホテルを経営している友人から「こっちでワーケーションをしてみたら?」と声をかけられたんです。誘いに乗って2週間滞在してみたら、東京にはないゆるやかな時間の流れに、すっかりとりこになりました。

岩見:
なるほど。

話をする岩見

あかし:
今の自分には、まさにこういう穏やかな場所が必要だと感じたんです。それまでも岡山には1泊2日などで遊びに行ったことがあったのですが、ゆっくり過ごしてみるうちに、東京との二拠点生活という選択肢が自分の中に浮かび上がりました。

そのときたまたま、ホテルを経営しているその友人から「近くに物件があるから、何か始めてみたら?」と古民家を紹介されたんです。海が美しく見えるあまりに素晴らしい立地で、ここを使って新しいことを始めるなら何がいいかなと考えたとき、書店をやりたいと思い立ちました。

岩見:
もともと書店をやろうと決めていたわけではなく、偶然なんですね。

あかし:
その通りです。今後の人生をどう生きようかと考えていたタイミングに、場所や人との出会い、もともと本が好きだった思いなど、さまざまな偶然が重なって、直感的に行動に移しました。2020年の夏には、開業を決意していましたね。

イベント当日の看板

開業資金として約200万を借り入れ。うち100万は物件の補修費に

岩見:
開業準備のエピソードを掘り下げてお聞きしたいです。まず気になるのは家賃です。やっぱり地方だと、家賃もお手頃なのでしょうか?

あかし:
家賃は月2万円です。おっしゃるように、地方ならではの金額だと思います。

岩見:
月2万ですか…!透明書店の家賃は月28万円なので、すごく魅力的に感じます。開業は2021年4月ということなので、物件が決まってから1年弱くらい期間があったと思いますが、この間は何に取り組まれていたのでしょう?

あかし:
開業を決めたのは夏でしたが、準備を本格的に始めたのは秋の終わりごろです。大きな桜の木がある物件だったので、桜が咲く4月に営業を始めようということだけを決めていました。

最初に取り組んだのは、物件の補修です。実は契約した物件は長年使われていなかった古民家。店舗として使うには土台から作り直すなど大規模な手入れが必要な状態だったんです。工事をしつつ、同時に書店業の始め方について本を読むなどして情報収集しました。

書店aruを紹介するスクリーン

岩見:
大がかりな補修もあったのなら、初期費用が結構かかったと思います。どこかから融資を受けましたか?

あかし:
はい。知り合いの税理士さんに相談しながら事業計画を書き、日本政策金融公庫から約200万を借り入れました。金額は自分の貯金でいつでも返せる範囲ということで決めました。

結局、工事にかかった費用は100万ほど。その他、本棚などの什器に40万、書籍の仕入れに40万円ほどを使いました。お金を借りたことで、安心して開業準備ができたのを覚えています。

岩見:
たぶん、新しいアイデアやモチベーションが生まれやすくなりますよね。まさに今、透明書店は資金繰りが厳しくなってきているので、お金の余裕の重要性を痛感しているところです。

ちなみにオープンにあたって揃えた本は、どのくらいのボリュームでしたか?

あかし:
新刊と古本、合わせて500冊くらいです。うち新刊は3割ほど。最初は、私の知人友人で本づくりに携わっている方が多いので、そういった方々の本を中心に仕入れました。古本は、半年くらいかけて仕入れましたね。今ではラインナップの幅はより広がっています。

トークするあかしゆかさん横顔

これが瀬戸内海の威力。“旅先の書店”ならではの空気感

岩見:
予定通り、2021年の桜の時期にオープンしたわけですね。実際に営業を始めてみていかがでしたか?

あかし:
瀬戸内海の穏やかな雰囲気と本のある空間のおかげで、ゆったりと過ごせる場所になっていると感じます。最初は無口だったお客様が、2〜3時間滞在されたあと、ぽつりぽつりと仕事や恋愛などのプライベートなお話をしてくれることが結構多くて。「aru」はお客様にとっては“旅先の書店”であるケースが多いので、一期一会の出会いに心を開きやすいのかもしれません。ただゆっくりと話を聞く。まるで保健室みたいだなと思っています。

aruの春の景色
(aruのお写真 あかしさんご提供)

あかし:もちろん、地域にお住まいのお客様にも支えられています。「aru」は、店名に込めたように “ただここにある”ということを大事にしています。どんな書店であるかをこちらから規定することはせず、それぞれのお客様が何を感じてくれているのかに寄り添いながら営業を続けています。

笑顔のあかしゆかさん

岩見:
すごく素敵な空間をつくれているのがわかります。
せっかくの機会なので販売管理費についてもお伺いしたいと思っていたのですが、主に家賃2万円、プラス水道光熱費といったところでしょうか?

あかし:
あとは、お店にウッドデッキを作ったり、本棚やソファなど什器まわりを充実させたり。他に、二拠点生活のための金額も大きなウェイトを占めています。交通費は往復4万円。最近は、岡山に滞在中はホテルではなくマンションで暮らすことにしたので、その家賃や通信費、光熱費。ほかにも車を購入したりなど、生活を整えるのにお金がかかりますね。

岩見:
なるほど。では、売上の構成比はどんなバランスでしょうか。実店舗販売だけでなく、東京でポップアップショップをしたり、オンライン販売もされていますよね。

あかし:
おおよそ実店舗6割、オンライン4割ですね。ポップアップショップを開く月は、そこに別途売上が追加されるイメージです。

オンライン販売を始めたのは2023年の頭でした。「aru」は開業日が少なく月に数日しか発送作業ができないので、注文された商品の到着まで、どうしてもお待たせしてしまいます。それでも遠方から応援を込めて注文してくださるお客様がいらっしゃることに、感謝の気持ちでいっぱいです。時間がかかってしまう分、何かたのしみを届けられたらと思って、店舗から見える海の写真を同封したりもしています。

岩見:
ワクワクする工夫ですね。あかしさんによる選書も人気だと聞きました。

あかし:
はい、ありがたい限りです。もともと私は人に本を勧めるのが好きで、過去にも何度か選書のイベントや取り組みをしたことがありました。そこで「aru」のサービスとしても選書を始めたんです。お客様には、かんたんなアンケートに答えてもらっています。そのアンケートの最後に「自由に200字程度で文章を書いてください」という自由な欄を設けているのですが、それがおもしろくって。いろんな情報から発想を膨らませ、お客様にぴったりだと思う本をお送りします。本を通してお客様とコミュニケーションをとれるのが、とても楽しいです。
(aruさんの選書サービスにご興味のある方はこちら)

イベント中店内の和やかな様子

稼ぐためではなく、「最高の趣味」として続けていく

岩見:
この10月で、開業から2年半ですね。今日までを振り返ってみていかがですか?

あかし:
 「aru」を始めて本当によかったなと思っています。お店をつくろうと決めたときは、どちらかといえば、「自分を救わなければ」という思いが強くありました。それが「aru」を好きだと言ってくださる方が増えるたび、純粋にお客さんのためにお店づくりをするようになっていきました。一人ひとりの顔を思い浮かべながら「この本があのお客様に届くといいな」と思いを込める。自分にとっての「aru」が、開かれた場所へと変化してきたのを感じます。

今後もお店と自分の関係性は、柔軟に変わり続けるのかなと感じています。もし今後、出産や介護などライフスタイルの変化があったとしたら、そのうち1人きりで経営を続けるのが難しくなると思うんです。一緒に取り組んでくれる信頼できる仲間を増やしていこうと思っています。

岩見:
なるほど。あかしさんの変化に伴って「aru」の持つ意味合いも変わっていることがよくわかります。

あかし:
開業のときから決めていたのですが、私は純粋な気持ちで「本が好き」と言い続けられる状態を守っていたいなと思っています。そのためには、「稼ぐ」ことに重きを置きすぎるのではなく、とはいえ売り上げがなくて自分が追い詰められてしまう状態にもせず、好きな場所で、好きな本を扱って、無理のない範囲で商いをやっていきたい。だから、高い目標を打ち立てて追いかけるというより、まずはミニマムで始めつつ、自分の感覚に従ってどんどん手を加えていきたいです。

岩見:
すごく共感します。僕らも書店の規模をどんどん大きくしていきたいというモチベーションはなくて、いかに面白く長く続けていけるかを模索しています。単純に本屋が好きで、街に本屋があるといいよねという思いが原動力です。

笑顔の岩見

あかし:
こういう形で本屋をしていると、本屋だけで商いをされている方々のことを、今までよりもさらに尊敬するようになりました。本屋さんは昔から、私にとって「好き」な場所だったのですが、今では行くたびに「本当にすごいなあ」と心から思います。ただ、私も私なりの真剣さでお店と向き合っています。店主として幸せも葛藤もめいっぱい感じますし、それらの感情は、誰かと比べるものではなく本物だということは、自分にいつも言い聞かせてあげていますね。自分の中に生まれる確かな気持ちとしっかり向き合い、これからも「aru」を続けていこうと思います。

あかしさんと岩見のツーショット

1時間の対談のあとは質疑応答でも話が膨らみ、アットホームな雰囲気のままイベントは終了しました。

透明書店では、引き続きさまざまなイベントを開催しています。先輩本屋さんにお話を聞く「素敵な本屋のつづけ方」や、ご近所の先輩経営者に公開相談をする「蔵前のスモールビジネスと透明書店」。そして“稀人ハンター”川内イオさんをモデレーターに迎え、気鋭のスモビプレイヤーからリアルな体験を伺うトークイベント「稀人たちのエピソードゼロ」など、盛りだくさんのラインナップ。X(Twitter)公式アカウントで随時告知をしているので、ぜひチェックしてみてください。

イベント開催中の透明書店(外観)

取材・執筆:安岡晴香
ライター・編集者。広告代理店、総合出版社勤務を経て独立。ウェブや雑誌で主にインタビュー記事を担当している。
撮影:芝山健太 デザイン:Samon inc. 編集:株式会社ツドイ

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「透明書店バックヤード」のタイトルと本が画面中に散らばっているキービジュアル。

記事では盛り込みきれなかった、書店経営の裏側を不定期Podcastでお届けします。まるでバックヤード(従業員控え室)でくりひろげられるような愉快な内緒ばなしを、ぜひお楽しみください。

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