小口現金管理における負の解消を目指した「freee支出管理」の新機能開発の裏側
マジ価値サマリー(この記事のポイント☝️)
2024年9月、「freee支出管理 小口現金(以下、小口現金機能)」の提供を開始しました。
「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げるフリー社が、スモールビジネスのリアルをより実感するために2023年にオープンした「透明書店」での導入、フィードバックを経て、プロダクトが改善されたという小口現金機能。一体、どのように取り組みが進んだのでしょうか。
今回はこの小口現金機能のドッグフーディング*に携わったメンバーにインタビュー。取り組みの背景やプロセス、今後の展望について伺いました!
小口現金機能の改善サイクルを短くするために透明書店での導入を相談
──まず、「freee支出管理」の小口現金機能について教えてください。
寺島:
「freee支出管理」は、経費精算や請求書処理、小口現金やカード支払いなど、会社で支払うお金をまとめて管理するサービスです。小口現金機能は、領収書を撮影するだけでAIが自動的に現金出納帳を作成してくれるだけでなく、登録された取引情報がリアルタイムに「freee会計」に連携されるというものになります。
寺島:
この小口現金機能を透明書店で利用してもらい、使い勝手の検証や、今後の改善ポイントを見つける上で協力してもらいました。
━━透明書店で使ってもらうことになった背景はどのようなものだったんでしょうか?
寺島:
今回のように新たに機能をリリースする際、営業してお客様に導入を検討いただくのが通常の流れです。ただ、導入決定まで少なくとも1ヶ月、利用が始まるまでを含めると、2ヶ月ほどかかります。
そのあとフィードバックをいただいて、改善に生かしていくとなると、改善できるまでのリードタイムが長くなり、スピード感を持ってプロダクトを良くしていけないという課題感がありました。
社内で利用してもらえれば、使い始めるまでのスピードも早く、またフィードバックのためのコミュニケーションも取りやすい。私から相談する形で透明書店に小口現金機能を導入してもらうことになりました。
──透明書店側として、今回小口現金機能を導入するに至った経緯は? 実際の業務でこの機能が必要になる場面があったのでしょうか?
岩見:
透明書店は「スモールビジネスの現場で、freeeの社員がfreeeのプロダクトを使う場所として運営する」という目的があるので、新しいプロダクトが利用できる機会があれば、どんどん試していきたいと思っています。そうすることで、フィードバックの精度や速度をより良く・速くできれば、お客様により良いものを提供できるので。
小口現金機能を導入してみようと考えたのは、実際に小口現金の扱いが手間になっていたから。普段はGoogleスプレッドシートを利用しながら、小口現金の利用毎に金額を記入していたので、「ここもっと楽にならないのかな」とみんなで話し合っていたんです。相談があった際は、「やります」と二つ返事で協力することにしました。
現場だからこそのフィードバックを踏まえたスピード感ある開発
──透明書店における機能導入に際して、なにかサポートなどは行ったのでしょうか?
寺島:
freee会計はすでに導入済でしたし、特別なサポートは行っていません。ヘルプページと簡単な導入用のマニュアルをお渡しして、お客様に近い状態で導入を進めてもらいました。
──くらげ会のメンバーとして経理を担当している嶋野さんの、当時の印象は?
嶋野:
ドキュメントは用意されていたので、まず私含めて3人の経理で読み合わせの時間を取って触ってみたんです。最初は「えっ、わかんない」って感じました(笑)
利用者の目線からすると、ドキュメントにおける説明が少々不足している印象を受けました。読むだけだとわからないところが多く、説明が飛躍していると感じられる箇所もいくつかありました。
お客様によっては「文字をあまり読みたくない」という方もいらっしゃいますし、「すごく便利そうに見えるけど、その過程が見えない」ということも起こりうる。そういう利用者としての目線での課題をいくつかリストアップし、まとめました。
フィードバックをお伝えするために寺島さんとのミーティングをセットさせてもらって、私たちが理解できなかった機能の使い道や、透明書店に合わないと感じた部分などを共有したんです。
──厳しいフィードバックと思いますが、受け取ったときの印象は?
寺島:
プロダクトマネージャーの立場としては、もちろん価値があると思って作っていますし、開発チームにはかなりタイトなスケジュールで作ってもらったという背景もあって、フィードバックを受けたときは正直かなりショックでした(笑)
ですが、正直に「使いづらい」とフィードバックを受けたからこそ認識を改められた部分や、改善すべき機能面はもちろんありましたし、また説明の仕方ひとつで印象が変わるんだと気づけた箇所もいくつかありました。
━━具体的にプロダクトの機能面についてのフィードバックはどのようなものでしたか?
嶋野:
通常、小口現金を管理する際は1円玉、10円玉、1000円札と、各紙幣・貨幣別に残高を「金種表」に記入します。透明書店では、金種ごとに枚数をスプレッドシートの現金出納帳に入力して計算して、その数値をfreee会計に入力する作業をしていました。
導入検討時の小口現金機能には金種を数えて残高を計算する機能がなく、これならスプレッドシートとfreee会計のままでいいと感じていました。「プロダクト内で金種表の計算が出来れば、作業手間が減り、導入価値はありそう」と伝えましたね。
寺島:
元々、小口現金機能のリリース時には「金種表」機能は用意してなかったんですが、嶋野さんたちからのフィードバックを受けて導入することにしました。
もともと、開発する機能の対象には「金種表」も入っていました。プロダクトとしてはまず、必要最小限の機能でリリースし、本当にお客様に必要かどうかを検証しながら段階的に機能を追加していきます。「金種表」もいずれかのタイミングで追加しようと考えていたのですが、その優先順位は決めかねていました。
「金種表」については他のお客様からも要望があり、透明書店からのリアルな声でのフィードバックもあって、改めてこの機能を開発する必要性を感じ、開発に着手。フィードバックから2週間ほどで機能をリリースしました。
金種表機能が削減した、現場業務の負荷
━━「金種表」機能がリリースされたときはどんな印象でしたか?
嶋野:
「ちょっと前にフィードバックを伝えたばかりなのに!?」って驚きました。早速使ってみて、「求めていたのはこれこれ!」となりました!
すぐに、これを使えば業務がもっと楽にできるとわかったので、透明書店の業務にあわせて若干カスタマイズする作業を行いました。そのうえで店長をはじめとする店頭でレジを担当する人が使えるように手順書も作成して、使ってもらいました。
岩見:
最初に使った透明書店の店長からは、Slackで「早速使ってみました、楽!」と連絡が来ました。使い始めた当日にその反応が来たので、業務にポジティブな影響をもたらす機能であることは明確でしたね。
嶋野:
透明書店は上場企業であるフリー株式会社の子会社ということもあり、スモールビジネスでは珍しく月次決算をしています。透明書店ならではの課題ではありますが、特に大きく変わったのは、この月次決算の締め作業です。
締め作業をしていると、帳簿上と実際の小口現金の残高が合わないということも度々ありました。ズレがある場合、以前はスプレッドシートで管理している現金出納帳と、freee会計の画面を両方映して、一つひとつの項目を確認していたんです。この月次決算の締め作業の負担は、かなり大きいものでした。
それが、小口現金に金種表機能が追加されたおかげで、毎日の営業終了後に自動でfreee会計上に整った状態で小口現金の残高を確認できるようになりました。
もし金額が合わなかったとしても、日付に「不一致」と通知が表示されるのでわかりやすい。業務上、人間が管理しているので、どうしても合わなくなることはあるんですけど、それに気づいて対応するまでのリードタイムが縮まった印象があります。
視点を切り替えながら、全員が「フィードバック」に向き合う姿勢
━━フィードバックをする側、される側として、互いになにか意識した点はありますか?
寺島:
例えば、データベースの設計や僕たちが使っている基盤などの制約上、どうしても要望を実現できないことがあります。ですが、それはお客様にとっては関係ないことなので、一旦意見を受け止めることを大事にしています。実現が難しい意見でも、他の要件の整理の仕方で実現できる方法がないかを検討するようにしていました。
━━フィードバックをする立場として意識したことや、大切にしたことは?
嶋野:
2点あります。1点目は、1ユーザーとしての考えや、率直な感覚やメリット・デメリットをはっきり伝えることです。自分も普段はプロダクトマネージャーとして開発チームに所属しているので、いろいろと検討した上で機能を削って価値のあるものとしてリリースしたことは理解しています。とはいえ、透明書店の経理という立場から感じたことははっきりと伝える、それが開発のため、本質的にはお客様のためになるということを心がけていました。
2点目は、とはいえ同じ作り手側なので、伝え方の解像度を上げることにも注力しました。なので、単に不便と伝えるだけで終わるんじゃなく、「これがあるとこういう価値につながります」とか、「実業務は毎日レジ締めして、硬貨や紙幣がいくつあるか数えてから残高を確認するから、金種表が必要」といったように、具体性を持って伝えるようにしました。
寺島:
2点目はドッグフーディングの価値につながる点だと思います。フィードバックをいただけても、抽象的だと、いざ開発しようという時に、デザインはどうあるべきか、仕様としてどういう要求であるべきか、どういった業務で不可欠なのかがわかりません。
それをインタビューしたり、業務の観察をしたりして、解像度を上げていくのが元来のプロダクト開発を決めるためのプロセス。
今回は、透明書店から具体的にフィードバックをもらえたおかげで、開発プロセスが非常にスピーディーでした。
━━岩見さんはフィードバックのやりとりを見ていて、なにか感じたことはありましたか?
岩見:
開発側も、透明書店のくらげ会メンバーもお互いすごく素直なんですよね。まずやってみようとするし、フィードバックがあったら一旦聞く。みんな前向きな姿勢で面倒くさがらないところがすごい。
特にくらげ会は、本業と一見逸れたことをやっているようにも見えるんですけど、みんなちゃんと価値があると思っているから動いている。しかもそれを漫然とやるだけじゃなく、次に活かしていこうという使命感を持って向き合っているんだと改めて感じました。
プロダクトがユーザーにとって、もっと価値あるものになるように
━━最後に皆さんに今後の展望をお伺いできればと思います。
寺島:
このプロダクトは小売飲食に従事されている企業の皆さんのために開発リリースしたプロダクトです。なので、事業的な側面でいうと、まずはちゃんと小売飲食のマーケットにフィットするような形で、事業をスケールさせていきたいと思っています。
ただやっぱりそのためには足りない機能がまだまだたくさんあります。みなさんからのフィードバックをもとに、しっかり使っていただけるようなプロダクトを目指していきたいですね。
━━ありがとうございます。くらげ会のメンバーとして、嶋野さんの今後の展望は?
嶋野:
くらげ会のメンバーは定期的に入れ替わるんです。私を含めて現在の経理担当メンバーはもうすぐ卒業。なので、新しいメンバーが小口現金機能や月次決算など含めて、経理の業務全体を担えるような形で引き継ぎをしていきたいなと思っています。この引き継ぎができないと、普段経理を行っていないメンバーが経理業務を覚えることと作業で精一杯になって、ドッグフーディングの強みであるフィードバックを開発側に伝えられなくなってしまいますから。
━━透明書店としての展望はいかがでしょうか?
岩見:
やはり新しくリリースされたプロダクトや、あるいはリリース前のベータ版の機能などは積極的に透明書店で実験し、フィードバックしていきたいと思っています。なので、まずユーザーの皆さんと同じように情報をキャッチしていきたいですし、自然とfreeeのプロダクト開発側から「意見が欲しい」と言ってもらえるようになっていけたらと。
最近はこれから店舗運営を始める人向けに、良かった点や悪かった点を明け透けに言うスタンスで、実際にfreeeのプロダクトを使った時の使用感を伝えるイベントを行っています。
※申込案内は12月25日までとなっていますが、2025年1月以降も開催予定です。
こうして、透明書店での取り組みを社内にも社外にも還元していけるようにしていきたいですね。
あなたにとっての「マジ価値」とは?コーナー
今回、話を聞いたチームに、あなたにとっての「マジ価値」を一言で書いてもらいました。マジ価値とは、短期的な視点に留まらず、中長期的に考えた時に本当にユーザーにとって、社会にとって価値があること。それぞれにとってのマジ価値は、こちら!