飲食事業がついにスタート!“半年間赤字続き”の現状から抜け出せるか?
蔵前に店舗を構える「透明書店」。2023年4月に開店以来、多くのお客様にご利用いただいています。本連載『お金まわり公開記』では、売上などのリアルな数字を公開中。今回も、聞き手はライターの安岡晴香さん。透明書店の代表を務める岩見俊介が、9月の売上や利益についてお答えします。
黒字化への道のりはまだまだ遠く……
――9月の数字が締まりました。さっそく実績を聞かせてください。
岩見:
またもや気が重い数字になっています。9月の売上は597,153円。前月を5万円ほど下回り、今月も赤字でした。詳しくは、9月末時点の損益計算書(P/L)を見てください。
岩見:
主要項目だけ抜き出してみますね。
岩見:
ジャンルごとの数字と月次目標はこちらです。
岩見:
書籍の売上をもっともっと伸ばしたいのですが、いい策が見つかりません。9月は日によってお客様の数に波があった印象です。過ごしやすい天気の日なのにガラガラだったり、うまくいかないものですね……。
岩見:
悩んでいても仕方ないので、9月上旬にはX(旧Twitter)でアンケートをとり「どんな本が店に置いてあると不意に買いたくなるか」を聞きました。フォロワーさんが増えてきているので、直接ヒントをいただくのもいいんじゃないかと思ったんです。
――おお。半数以上の方が、少部数や小さい出版社の本、ZINEに興味を持っていますね。
岩見:
これを受け、リトルプレスの量を増やしてみようと思っています。普通の書店では出会えないような本に巡り会える、それが透明書店の個性になるはずだと自信がつきました。
ただもちろん、フラッと来た方が楽しめる棚作りも忘れないようにします。引き続き、店舗の入口にはベストセラーや漫画などのキャッチーな本を置くつもりです。
――さまざまな層のお客様に刺さる空間になるといいですよね。
岩見:
そうですね。それと「どれから手に取ったらいいかわからない……」というお客様も多いと思うので、陳列ボリュームに差をつけてみようかとも思っています。現状、平積みタイトルの冊数は3、4冊くらいですが、いくつかのタイトルを高く積み上げれば「これを推しているんだな」とわかりやすい。店内を見て回るときの指針になると思うんです。
イベントは全3回。集客が少なくても「収穫」があるケースも
――先月、新グッズ「アイスキャンディーキーホルダー」を投入したとのことでした。売れ行きはいかがでしたか?
岩見:
9月末時点の販売数は7点です。パッと見た瞬間に「かわいい」と言って買ってくださる方が多く、手応えを感じています。あとは、本がたくさん入るトートバッグが売れていますね。
今月はグッズの予算達成率は約5割にとどまったのですが、大きな要因は外部からのポップアップ販売が入らなかったことだと思います。8月に体調を崩し、バタバタしてしまってうまく仕込みができなかったんです。ポップアップがないと、オリジナルグッズだけではなかなか数字を作りにくいという感覚があります。
――もうひとつ重要な軸であるイベントについてもお聞きします。9月は3回実施したとのことで、数字も順調ですね。
岩見:
現地集客についてはまだまだ課題がありますが、オンラインチケットを販売し始めたことが売上を押し上げてくれました。会場チケットより販売数が上回ることも多いです。平日のイベントだと仕事の関係上間に合わないという方も多いので、オンライン視聴で楽しんでいただけるのはうれしい限りです。
――9月のイベントで特に参加者が多かったのは?
岩見:
川内イオさんの企画の「稀人たちのエピソードゼロ」ですね。今回は第2回目として、両国と森下の間に「喫茶ランドリー」を展開する田中元子さんをお迎えしました。イベント内で紹介した書籍『1階革命』『マイパブリックとグランドレベル』はその場で完売。もっと仕入れればよかったと思うほどの売れ方でした。
ただ、集客数がすべてだとは思っていないんです。9月でいうと蔵前にファクトリーを構える「ダンデライオン・チョコレート」さんとのコラボイベントは、客入りこそ落ち着いていましたがとても意義深い内容になりました。イベントをきっかけに「チョコレートと本を扱った企画をやりましょう」という話が出ています。これだけでも、イベントとしては大きな収穫だと感じます。
ドリンクの提供開始!店内がちょっぴりにぎやかに
――続いて販売管理費について見てみましょうか。
――消耗品費がいつもより多い印象ですが、これは?
岩見:
9月は、飲食事業開始に向けて環境を一気に整えた月でした。金額としては、冷蔵庫が一番大きな買い物です。あとはモップなどの清掃用品を追加購入したり、アイスコーヒーなどを出す際に使うグラスを近所の素敵な雑貨屋さんで購入したり。細かい出費が発生しています。
岩見:
9月半ばには保健所の方が2名体制で店舗にいらっしゃり、申請通りの環境になっているかチェックしてくれました。指摘箇所は「冷蔵庫には温度計が必要なので準備してください」と言われたくらい。申請はスムーズに通りました。
――いよいよ提供開始ですね。
岩見:
はい。9月末から開始しています。メニューは、クラフトビール6種類とクラフトコーラ、サイダー、アイスコーヒー、アイスティーです(9月末時点)。今後、イベントはワンドリンク制にするなど、販売方法についても工夫していきます。フードの提供も始められたらいいですね。イベントでできた関係性を活かすなど、人と人とのつながりの中でメニューを追加していくと面白いなと思います。作り手の顔が見えるような、ストーリー性のあるラインナップにしていきたいです。
――楽しみです。販売管理費に話を戻しますが、「租税公課」の数字が上がっているのが気になります。これは?
岩見:
各種申請料です。まず飲食事業の申請で1万8000円、そして棚貸し事業のための古物商許可申請で1万9000円がかかりました。棚貸し事業は先月もお話したように、棚を借りてもらい本を売っていただくというビジネスモデル。みんなで作る、シェア型の書店をめざします。
「棚貸し事業」も進捗順調。めざすは書店のコミュニティ化
――いつ頃から開始するか、目処は立っていますか?
岩見:
古物商の許可は、書類さえ揃えれば申請できます。申請してから許可が下りるまでに1ヶ月以上かかるということですが、できれば11月〜12月あたりから開始したいと思って動いています。
――これから準備で忙しくなりそうですね。
岩見:
はい。棚を設営したり、借り主を募集したり、やるべきことだらけです。右も左も分からない手探り状態なので、最近は実際に棚貸しを運営されている書店にヒアリングに行かせてもらっています。先日は祖師ヶ谷大蔵にある「BOOKSHOP TRAVELLER」の店主、和氣さんにお話を聞きに行きました。
――どんな気づきがありましたか?
岩見:
本当にたくさんの学びがあったのですが、特に印象的だったのは「顔の見える方々と信頼関係を築きながら、一緒にやっていくのが大事」というお言葉。完成された環境を借り主に提供するというスタンスではなく、借り主と僕らが一緒に場を「共創」していくという姿勢を持つことが大切だと感じました。フラットな関係で、共に試行錯誤していければと思います。
岩見:
借り主の募集は、11月中に開始できればと思っています。一体どんな方が応募してくださるのか、棚は埋まるのかなど、本当に未知なことばかり。これから本屋を始めたい人や、本を作っていきたい人たちなどが集まれる、交流の場になればうれしいです。
ちなみに、棚の横にはギャラリースペースを設けるなど、空間の楽しい使い方についてもあれこれ考えているところです。飲食の提供も掛け合わせて、心地いい書店をめざします。
――にぎやかな雰囲気になりそうでワクワクします。それでは10月の意気込みを教えてください。
岩見:
9月はある程度暑さも和らいで、もう少し来店数が増えるかなと思ったんですが、なかなか厳しかったです。でも飲食をはじめ、新しい収益の柱を作れている実感はあります。まだまだ黒字化までの道のりは遠いのですが、今は手元の運転資金をしっかり活用し、あれこれ種まきをするフェーズ。伸びしろはあると信じているので、先へ先へ、積極的に動きながら実績につなげていきたいです。
透明書店のあゆみ
9月の振り返りメモby遠井店長
9月は、イベントのZOOM配信が好調でした。たくさんの方にコンテンツを届けられて、うれしい気持ちです。オンライン参加の場合はアーカイブ視聴も可能です。予定が合わなくても楽しめるのでぜひチェックしてみてください。
店頭での大きな変化は、やはり飲食の提供がスタートしたことですね。瓶入りのビールやサイダー、アイスティー、アイスコーヒーなどを販売しています。レジにボトルを並べたことで、店内の雰囲気がちょっと変わり、新鮮な思いです。
最近は、特に土日の人通りが春や初夏と比べて少なくなっている気がします。秋になれば賑わうのでしょうか。不安はありますが、目の前のことを頑張るだけ。居心地の良い空間になるようこれからも工夫しますので、ぜひ足を運んでみてください。お待ちしております。
計画的に売上の種をまいている透明書店。10月の数字はどうなるのか、期待が高まります。次回の「お金まわり公開記」もお楽しみに!
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