「人を雇うって、こんなに大変なの!?」freee社員が書店の労務をやってみたら、戸惑いの連続で…
透明書店を舞台に、実務と実験をおこなうプロジェクト「くらげ会」。freee社内からさまざまなスキルを持つ有志メンバーが集い、通常業務の傍ら、さまざまな試行錯誤を重ねています。
そんなくらげ会メンバーのリアルな体験を紹介する連載『freeeの現場奮闘記』。今回は、立ち上げ時に労務領域を担当していたnikoさん、yoshiyoshiさん、fujiさん、semiさん(オフィスネーム)にインタビュー。スモールビジネスの現場で得た気づきを赤裸々に話していただきます。 今回も、聞き手はライターの安岡晴香さんです。
「まず何から始めたらいいんだ?」困惑の中スタート
――今日は、2023年前半に「くらげ会」の労務を担当した4人の皆さんに当時のお話をお伺いします。
まず初歩的な質問で恐縮なのですが、労務って、具体的にどんな仕事なのでしょうか?
niko:
案外ピンとこないものですよね。わたしたちの考える労務の基本的なミッションは、以下のとおりです。
就業規則の用意
社会保険や雇用保険の手続き
勤怠管理
給与管理
今回私たちは、透明書店株式会社が店長を雇用するために必要な、諸々の業務を行いました。先にプロジェクトにアサインされたのは私とyoshiyoshiさん。1月25日にキックオフし、しばらく2人で環境を整えてきました。
yoshiyoshi:
初日に2人で話し合ったのは「まず何から始めたらいいんだろう」ということでしたよね(笑)。僕もnikoさんも、当時「freee人事労務」というサービスの開発部署にいたので、労務まわりのざっくりとした知識は持っていたんです。でも、いざ具体的に動くとなると、どうしていいかわからず足がすくんでしまって……。
niko:
半ば途方に暮れながら、リサーチしましたよね。救世主になってくれたのは、社内のメンバーが見つけてくれたTo Doリストでした。ある社労士の方が、労務の必須アクションを一覧に整理し、SNSにアップしていたんです。
yoshiyoshi:
そのリストを見ながら具体的に動き出しました。透明書店の場合は何が必要なのか、freeeのサービスで簡略化できる作業はないかなどを話し合いながら、項目に優先順位をつけていったのを覚えています。
niko:
当時から、店長として遠井さんを採用することは決まっていました。だから急ぎ労働条件をすり合わせ、「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成しました。思えばあの時期は、割とゆったりした気分で動いていましたよね。3月中旬までは週1回、1時間のミーティングで事足りていました。
yoshiyoshi:
たしかに、ちょっと余裕をこきすぎたと思うくらい(笑)。業務の全体像すら掴めていないから、特に焦りもなくほわほわした感じで作業していました。
――なるほど。そして3月に、fujiさんとsemiさんが仲間に加わったわけですね。
fuji:
はい、僕とsemiさんが途中からジョインしました。ちょうど遠井店長の入社日が決まり「いつまでに何をしないといけないか」が具体的に見えてきたタイミング。業務効率化を図るべく、まずはfreeeのどのサービスを、どのプランで契約するのがベストかを検討しました。
semi:
必要最低限のコストを抑えたプランで進められるよう試行錯誤しましたね。そこから、社会保険関連の書類や、給与支払事業所等の開設届出書の作成、就業規則の作成などを進めていきました。
niko:
中でも苦戦したのは、就業規則の作成でした。当時、就業規則を作れる機能がfreeeのプロダクトにまだ搭載されていなかったこともあり、とにかくわけがわからず……心が折れそうでした。
yoshiyoshi:
就業規則を0から自力で作るのは、ほぼ不可能だと思いました。項目が多すぎるし、情報を調べているだけであっという間に1日が終わってしまう。今回は、freee株式会社の就業規則を参照することで、なんとか乗り切りました。
リアルな経験のために、あえて業務分担はしなかった
――お話を聞いているだけでヒリヒリしてきました。そもそも、皆さんはなぜ「くらげ会」の労務に参加したのでしょうか?
niko:
モチベーションは、みんな似ていたと思います。とにかく、現場でリアルな経験をしてみたいという一心でした。
当時、私は「freee人事労務」というサービスのエクスペリエンスデザイナーを務めていました。業務の中では、ユーザーに「初めて人を雇用するときに大変なことは?」などをテーマにインタビューする機会が多く、労務担当者のリアルな声をたくさん聞いていました。一方で、その声の本質がわからないことが多くて。自分も現場目線で物事を見れるように、経験を積みたいと思ったんです。
yoshiyoshi:
僕も当時、nikoさんと同じチームにいました。やはりインタビューで話だけ聞くのと、自分で実体験するのとでは理解の深さが雲泥の差だろうなと思って、ぜひ実際の労務の仕事をやってみたいと思いました。
fuji:
僕もほとんど同じです。普段は「freee人事労務」のプロダクトマネージャーを務めているのですが、自分が労務担当者側に立ったことはなかったので、ぜひ経験しておきたいと思ったんです。
semi:
私は3人と違って営業なので、「freee人事労務」を作る側ではなく売る側の人間です。営業活動としてスモールビジネスの労務担当者と関わる機会が多い中、お客様が実際どんな課題や悩みを抱えているのかを知りたくて参加しました。
――4人とも「リアルな経験」を目当てに飛び込んできたわけですね。
niko:
だからこそ、あえて業務分担はしませんでした。できる限りスモールビジネスの実際に近い環境で、すべてをまるっと経験してみるべきだと思ったからです。少々煩雑になったとしても、とにかく4人ともできるだけ多くの業務経験をしてみようと決めました。
――準備期間を経て、お店がオープンしたのが4月下旬。その頃から遠井店長の実働が発生していますが、特に大変だったことは?
semi:
遠井店長とうまくコミュニケーションがとれておらず、勤怠管理の入力が進んでいないということがありました。「あれ?今日は働いているはずなのに、何も入力されていない」と。
yoshiyoshi:
ありましたね。僕が直接透明書店に行って、遠井店長に勤怠の意図や入力方法をお教えしました。
niko:
逆に「今日は休みのはずなのになぜか勤怠が入っている」ということもありましたよね。
yoshiyoshi:
つまりはコミュニケーション不足だったんです。本来はあらかじめ遠井店長に「いつ休みますか?」とか「このくらい働いたらこのくらい休んでくださいね」みたいな確認をするべきだった。勤怠入力の方法についても、寄り添って声をかけるべきだったと思います。
fuji:
freee本社は大崎、透明書店は蔵前にあり、電車移動で40分以上かかる距離。物理的に意思疎通がしにくかった側面もありますよね。とにかくいろんなトラブルが、元をたどればコミュニケーションの問題に起因していました。今回雇用した従業員は、遠井さん1人。なのにまさかこんなにバタバタするとは……。労務担当者が現場の実態を把握するのって、難しいことなんだと知りました。
役所に感謝。「思った以上に丁寧にサポートしてもらえました」
semi:
労務の知識をある程度持っていた私たちでもてんやわんやだったから、もし知識がまったくない方が0から調べて入社手続きや労務を進めるとしたら、結構ハードルが高いですよね。役所まわりの手続きも相当煩雑でした。
niko:
住所などの決まりきった情報を、複数書類に何度も繰り返し記入しましたね。夜中にひとりでやっていたら、気分が滅入ってしまうような作業でした(笑)。
fuji:
しかも、書類によって提出窓口や管轄が異なるのがややこしかったですよね。政府や官公庁のサイトは、一部とてもわかりにくいものがあったし……。
――役所まわりは、特に大変そう。印象に残っているエピソードはありますか?
yoshiyoshi:
健康保険の申請ですごく慌てたことがありました。事前に調べた限り「オンラインでできる」と書いてあったから、それを信じていたんです。でもいざ申請を進めようとしたら、“オンライン申請のための申請”を役所でやらなくてはいけないことが判明して……。それが、遠井店長の入社日直前のタイミングでした。申請が通らないと健康保険証が発行できないため、慌てて役所まで行きました。
niko:
あのときはヒヤッとしましたね。ただ、個人的に意外に思ったのは、役所の皆さんが総じて丁寧でとても優しかったことです。
semi:
たしかに、その件に限らずいつも手取り足取り情報を教えてくれました。電話もつながりやすく、とても頼れる存在でした。最初は「間違えたらまずいから完璧にやらなきゃ」と思っていたけど、いつしか「一旦役所に提出して、間違えているところを教えてもらおう」というスタンスになっていたほどです。
fuji:
すごく共感します。実は僕をのぞく3人は、5月でくらげ会の業務を終えています。僕だけ自主的に7月まで残り、日本年金機構に提出する「算定基礎届」の作成や、住民税特別徴収の申請などを行いました。その中でもわからないことが大量に発生したのですが、すぐに役所に聞いて解決していました。だいぶ救われましたね。
気づきを活かし、労務担当者に寄り添っていく
――今回たくさんの気づきを得たと思いますが、何か実務に活かしたことはありますか?
niko:
私とsemiさんは、この経験をひとつのきっかけにして「はじめての雇用ナビ」というランディングページを制作しました。簡単な質問に答えていくだけで、労務担当者が今何をするべきかが詳しくわかるというものです。
特にこだわったのは、具体的な必要書類とその提出先、取り組むべき順番をわかりやすく明示すること。単なるTo Doを教えるサイトではなく、情報の優先順位が厚みとしてわかるように設計しました。
semi:
この秋にリリースしたばかりなので反響はまだありませんが、スモールビジネスを始める皆さんの役に立つサービスになっていると思います。
semi:
加えて営業としても、解像度がグンとあがった実感があります。「freee人事労務」のお客様には、これからはじめて雇用に挑戦する人と、今まで紙ベースでやっていたのを便利に自動化したい人と、2つの立場があることに気づいたんです。両者が感じているペインはだいぶ違うので、以来、商談の際にはお客様のステータスに合わせて提案の仕方を変えるようにしています。
おかげでお客様の反応が良い意味で変わってきています。この手応えを共有しようと思って、マーケティング向けの社内セミナーを開いたりもしました。
yoshiyoshi:
僕の場合は具体的なアクションではないのですが、業務へのスタンスが変わりました。まず、初めての雇用は本当に何もわからないところからスタートするんだなと実感できたのが、経験として大きかったです。
それに、自分たちのプロダクトのありがたみをユーザー目線で感じられたのもいい機会でした。給与計算を自動でやってくれたり、会計ソフトと連動して人件費をスムーズに計上してくれたり。やるべきことが多い中で、だいぶ助けになることがわかりました。
fuji:
僕も「サービスは、めんどくさいと使われない」という気づきを得ました。正直今までは、必要な機能を用意すれば自ずとみんな使ってくれるものだと思ってプロダクトを作っていたのですが、実際に現場に立ってみたら、やることが多くて心が折れてしまう感覚がすごくよくわかるようになったんです。
ならば、忙しい経営者や労務担当者が使いたくなるような便利なサービスを作ろう。それって一体なんだろう。そんなことを、今まで以上に考えられるようになったと思います。
――大変な日々があったからこそ、視野が広がったんですね。皆さんの今後の活躍が楽しみです。今日はありがとうございました。
この連載では、透明書店をさまざまな角度から支える「くらげ会」メンバーに、引き続きお話を伺います。次回もお楽しみに!
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