「合理的配慮」とfreeeの株主総会
こんにちは。freeeコーポレートガバナンスチームの岡田麻希です。
株主総会を実施してから早5ヶ月が経ちました。
総会の舞台裏については既に記載しましたが、今回は、「合理的配慮」という別の視点から発信したいと思います。
本noteの後半では、freeeのアクセシビリティを推進してきたエンジニアで、ご自身も全盲である中根さんにインタビューも行っています。ぜひ最後までお読みください。
◆合理的配慮ってそもそも何?という方はこちら↓をご覧ください(政府広報オンラインに飛びます)。
https://www.gov-online.go.jp/article/202402/entry-5611.html
株主総会で行った合理的配慮に関する対応
freeeでは、昨年の株主総会で新たに以下のような対応を行いました。
①と②について、これだけだとよく分からないと思うので少し詳しくご説明します。
まず、①の合理的配慮専用窓口について。
freeeでは、従来からプロダクト等について障害のある方が相談できる専用窓口を設けていますが、その専用窓口を新たに招集通知にも記載しました。後の中根さんインタビューでも詳しく触れますが、専用の窓口があることで障害のある方がよりお問い合わせをしやすくなり、更に専門チームである合理的配慮委員会にダイレクトに繋がることができるという観点から、この窓口について記載することにしました。
②のHTMLページに関する改善については、従来のPDFによる招集通知では音声読み上げソフト等で不具合が発生することが多いことから、HTMLページへのリンクを公式サイトの分かりやすい場所に配置し、更にそのHTMLページ内でも読み上げに対応していない箇所に説明書きを付ける対応を行いました。
このHTMLページは議決権行使や総会出席用のリンク等も揃っており、通常であれば招集通知を読んで各QRコード等を探す必要があるところ、このHTMLページを使えば1つのサイトから議決権行使や総会出席のページにスムーズに遷移できるというものになっています。
きっかけは4月の障害者差別解消法改正
これらの対応を行ったきっかけは、昨年4月の障害者差別解消法改正です。この改正により、民間の事業者による障害のある人への「合理的配慮」の提供が義務化されました。
株主総会で行われる合理的配慮というと、一般的には車いすの方の入場への配慮や手話通訳者の方の同伴を認めること等が挙げられます。
一方で、freeeのようなバーチャルオンリー株主総会(リアルの会場が無く、インターネット上で行う株主総会)はそもそも前例が少なく、freeeの株主さまにどのような配慮を必要とされている人がいるのかもまだ明確には分かっていません。
そこで今回の総会では、freeeの「合理的配慮委員会」の委員長で、全盲のエンジニアでもある中根さんに当事者として話を聞き、まずはスタートラインに立つための施策として、上記3つの対応を行うことにしたのです。
freeeでバリバリ働く中根さん
中根さんに合理的配慮についてインタビューで語っていただく前に、freeeのDEI、そして中根さんのことを紹介させてください。
私は以前、広報チームでfreeeのエンジニア関連の発信を担当しており、その中で社内で働く全盲のエンジニア、中根さんと出会いました。
後にもご紹介しますが、中根さんはfreeeにおいて、「だれもが自由に経営できる統合型プラットフォーム」というビジョンを実現するためのアクセシビリティ改善の取組みを推進する役割を担っています。日常業務ではアクセシビリティー・ガイドラインの整備などを行っているほか、昨年6月に発足した「合理的配慮委員会」の委員長にも就任されるなど、障害の無い人と何も変わらず、バリバリと活躍されています。
<中根さんたちが作ったfreeeの合理的配慮に関する研修は、メディアで取り上げていただきました。↓>
freeeに浸透する「障害は社会が作り出すもの」という考え方
そもそもfreeeはDEIの「E=Equity」の観点から、「障害やマイノリティとは社会が作り出すものである」、という考え方を持ち、施策を進めています。
このため、たとえば、英語話者のために社内イベントに英訳字幕を付けたり、子育て世代のために子連れ出社を可能にしたりといったことと同様に、医学的な障害、たとえば目が見えないことや耳が聞こえないことについても必要な配慮を行うことで、極力「お互いに働きやすい環境」を作ることができるよう努めています。
ちなみに中根さんご入社時は、ご本人からのヒアリングも踏まえて席の配置の工夫や点字ラベルの設置などの環境を整え、その後も何か困ったことがあればチーム横断で相談して改善してきたそうです。
「合理的配慮」と株主総会
このような社会モデル的な考え方を株主総会に置き換えたとき、株主様が議決権という大切な権利を行使するにあたって障害となっていることは何だろう、とチームで検討を開始しました。
検討にあたって一番重視したのは、当事者の方が実際に何を「障害」と感じるのかということ。そこで、合理的配慮委員会の委員長である中根さんにご相談し、対応内容を決めていきました。
ここからは、今回の対応内容や「合理的配慮」そのものについて、中根さんへのインタビュー形式でお届けします。
合理的配慮委員会委員長 中根雅文さんインタビュー
ー中根さんはfreeeで長い間アクセシビリティ向上に取り組まれていますが、何かきっかけはあったのですか?
私自身が全盲の視覚障害者ということもあり、学生のころから情報のアクセシビリティの必要性を強く感じていました。たとえば学生時代にアラビア語を学ぼうとした際、アラビア語の点字資料がなかなか見つからず大使館に電話をかけて探すなど、必要な情報にたどり着くためにいろいろ試行錯誤してきました。大学卒業後も同じように仕事やプライベートでアクセシビリティの向上に取り組んでいたところ、2018年に声をかけてもらってfreeeに入社することになりました。
ー今回の株主総会では特にHTMLページの改善についてご意見をいただきましたが、もう一度その意図をお伺いできますか。
はい。私も郵送で株主総会の招集通知を受け取ったことがあるのですが、紙でもらっても見えないので、内容は何も分かりません。気になればインターネットで検索しますが、招集通知は基本的にPDFでアップロードされていることが多く、それだと音声読み上げがうまく機能しないことがあります。
CGチームにはこういったことを伝え、「HTMLページにすぐにたどり着けるとありがたい」という話をしました。
ーHTMLページも中根さんに確認いただきましたよね。その結果、表の部分が画像になっていて音声読み上げできないということに気づきました。
はい。今回、画像に説明文を追加したのは非常に良かったと思います。
ーこのほかにも、障害のある方専用の問い合わせ窓口を案内するなどの対応を行いました。改めて、今回の株主総会における合理的配慮について振り返っていかがでしょうか。
今回の対応で重要なポイントは2つあると思っています。
まず1つは、具体的なニーズを考えて具体的なアクションを起こしたということ。
合理的配慮のあり方というのは、大変個別性が高いもので、障害の種類や特性、その時々の状況等によって、どんな配慮が必要かというのは全く異なります。このため、障害がある方からのヒアリングや実際のご相談などを通して具体的なニーズを知り、それに対してどのようなアクションを起こすのかが大変重要だと考えます。
2つめのポイントは、会社として「障害のある人が株主にいるということを認識している」、という意思表示ができたことです。
被害妄想かもしれないですが、私を含む障害者の中には、「どうせ運営者は障害の無い人で、障害者のことなんてあまり意識していない」と考えてしまうことがあります。何か質問してみたいと思っても「自分はそもそもサービスの対象じゃないかもしれない」と躊躇してしまうんです。そういった人が、まずはコンタクトしてみようと思えるきっかけになるのではないかと思います。
ー障害のある方専用の窓口があることで、freeeのスタンスを伝えることができるのですね。
そうですね。これまで躊躇していた人にとっては、「0が1になった」のではなく、「マイナスが0以上になった」というインパクトがあると思います。すぐに何かが変わるとはいえませんが、将来的に見て必ずいい影響があると思います。
ーfreeeでは、株主総会以外にも製品等について障害のある方からのお問い合わせを受け付ける窓口を作っていますよね。6月からオープンしていると思いますが、運用してみて何か感じたことはありますか?
発信がまだまだ足りないなと感じています。プレスリリースを出して、メディアにも取り上げていただいたりしたのですが、肝心のユーザーの皆さまに浸透していなくて。問い合わせ件数はまだまだ少ないですね。現在は、ユーザーへの発信に力を入れていて、それを見て問い合わせやSNSで反応をくれた方がいました。
ー具体的にはどのような対応を行うのですか?
合理的配慮は個別性が高いので、「こういうお問い合わせが来たら必ずこれをします」というものはありません。マニュアル化や過去事例に基づいて対応するのではなく、お問い合わせの都度、個々のニーズに応じた可能な範囲のアクションを対話して決めていきます。
一番良くないのは、社内の通常の問い合わせ窓口にご相談があった際に対話せず断ってしまうことです。そのようなことが起こらないよう、社内のサポートチームの社員へ専門の研修等を行い、障害のある方からのお問い合わせがスムーズに合理的配慮委員会に連携されるような体制を今後も整備していきたいと思っています。
ー株主総会も含め、合理的配慮の対応について社内外でまずは知ってもらうことが大切ということですね。
そうですね。やはり知らないと、たとえば招集通知のPDFがうまく音声読み上げされなくても「まあいいや」と諦めてしまう。窓口があると「ちょっと相談してみようか」とも思えるし、そこでHTMLページもあると聞けばそれを読みに行くことができる。諦めなくてもいいんだということを、どう伝えるかが重要です。
個別性が高いので事例を積み重ねるのもなかなか難しいですが、対応事例などについて外に発信していくと、他社にも広がっていくのではないかと思います。
ー今後、企業の合理的配慮対応について「こうなると良いな」という理想はありますか。
究極的には、「合理的配慮窓口」自体も必要なくなるのが理想です。
今はまだ、合理的配慮の相談を受け入れることがあまり一般的なことではないと思うので、一般の窓口では受け入れることが難しい現状があります。どの企業でも合理的配慮の相談を普通に受け入れてもらえるという認識が広がれば、専用の窓口も必要がなくなります。それが理想ですね。
ーありがとうございました。
「合理的配慮」が当然の社会はあらゆる人を生きやすくする
今回中根さんのお話を聞いて、「諦めなくてもいいんだということをどう伝えるか」という言葉がとても印象に残りました。
障害者差別解消法の「合理的配慮」や「環境の整備」は主に障害のある方への対応を指しますが、お互いに自分とは異なる状況にある人のことを想像し、配慮しあうことが当然と認識される社会は、障害のある方だけでなくあらゆる人がいろんな可能性を諦めなくてよい、生きやすい社会なのではないかと思います。
まだまだ発展途上な取組みではありますが、いつか中根さんのおっしゃる「合理的配慮窓口が必要のない世界」に一歩でも近づくよう、freeeでも株主総会を含めた合理的配慮の対応、および事例の発信をしていきます!