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【マズい…】フェアを実施するのに、肝心の本が届かない!?慌てて出版社に問い合わせ…

2023年4月、東京・蔵前に開店した「透明書店」。本連載『お金まわり公開記』では、オープン以来、売上や経費などをありのままにお伝えしています。今回は、1月の実績をお伺いします。2024年はいいスタートを切れたのでしょうか。聞き手はライターの安岡晴香さん。透明書店の代表を務める岩見俊介が、リアルな現状をお話しします。


取材に応える岩見

「推し本」がわかりやすいように、面陳を増やした

――1月の数字がまとまりました。手応えはいかがでしたか?
 
岩見:
売上は771,712円と、先月より20万円弱積み上げることができました。寒い日が続きましたが、客数は思ったほど減らず、特に休日は安定して多くのお客様にご来店いただけました。詳しくは、1月末時点の損益計算書(P/L)を見てください。

2月分の損益計算書の表

岩見:
主要項目だけ抜き出してみますね。

PL主要項目のグラフ
①売上高¥771,712、②売上原価¥574,035、③売上総利益¥197,677、
④販売管理費¥867,265、⑤営業利益¥-669,588

岩見:
ジャンルごとの売上実績と月次目標はこちらです。

PL主要項目のグラフ
書籍¥573,772、グッズ¥29,182、イベント¥112,500、レンタルスペース¥30,000、飲食¥26,258
1月次目標の表
書籍 ¥600,000、グッズ ¥99,000、イベント¥250,000、レンタル¥200,000、飲食 ¥50,000 
書籍・グッズ・イベント・レンタルスペース・飲食の月次推移のグラフ

――では、書籍からお伺いしていきます。目標売上60万円までもう少しと順調でしたね。工夫したことは?                              

岩見:
透明書店が推したい書籍をわかりやすくしていこうということで、面陳(表紙が見えるようにする陳列方法)の割合を増やしました。棚によっては、1列まるまる面陳にしてコーナーを作っています。これまでは、網羅性を優先して基本は差しで並べていて、表紙が見える本は平台や各棚数冊だけにとどまっていました。今は、透明書店のおすすめがわかりやすく伝わるようになったと思います。

入口付近の棚の様子
面陳の本が増えた本棚の様子

岩見:
特に店内入って右側にあるくらげモニター横の棚に、力を入れました。1月末現在は、2023年を振り返って改めてプッシュしたいおすすめ本を、POPつきで展開中。これからも、この棚はディスプレイ要素を高め、面陳のフェアをやっていこうと思います。入店後、最初に足が止まるような場所になったらいいですね。

取材中、資料を見ながら笑顔を見せる岩見

「フェア用の本が間に合わない!」と大ピンチ

――続いて、イベントについてお伺いします。1月は全4件で、売上は11万円台です。特に印象に残っているイベントはありますか?

岩見:
「『デザインのミカタ』を身につけ無限のセンスを手に入れるセミナー 〜セミナーの学びを活かして書籍・書店をデザイン目線で楽しんでみよう!」というイベントです。デザインを見るセンスを磨くために「デザイン目線」をお教えするというコンセプトで、デザイナーでない方でも楽しんでいただける企画でした。

【イベントのアーカイブリンク】

初日にイベントを行い、同時にギャラリーで企画展、そして選書フェアを開催するという立体的な内容です。企画展では、書籍『デザインのミカタ』の内容にちなんで、デザイナー目線で透明書店を歩く音声ガイドをご用意。QRコードを読み取って再生すると、デザイナーが書店や本をどう見ているのか、ポイントを知ることができるというものでした。

――面白そうですね。どんなお客様が集まったのですか?

岩見:
デザイン系のお仕事をされている方はもちろん、さまざまなモチベーションの方が来てくださった印象です。初日のイベントは、オンライン含めて43名のお客様にご参加いただけました。僕らは、スモールビジネスをテーマにした書店。自分でビジネスをしていて「制作物を作らなきゃいけない」「デザイナーに発注するときのポイントを知りたい」と思っている方にとって、学びがあったのならいいなと思います。

そういえば、店舗側の話ですが、このイベントにまつわる反省事項がありまして……。

取材に応える岩見俯瞰

――反省事項?

岩見:
選書フェアで、関連するデザイン系の本をまとめて展開することが決まっていました。しかし本を選ぶのが遅くなってしまい、本番までに用意が間に合うか危うくなってしまったんです。取次会社を介して本を注文すると、場合によっては店着するまでに3週間くらいかかります。だから前々から動いておくべきだったのですが、気づけば日付が迫っていて……。

結局出版社さんに直接問い合わせて、直送していただくことに。間に合ったのでよかったのですが、基本的に直送だと、送料は書店持ちになってしまいます。利益率の低い書店ビジネスでは、結構痛い……。2週間ほどフェアを展開しましたが、送料分の利益を回収できるほどの売り上げを作るのは難しく、実利はややマイナスになってしまいました。

――なるほど。早め早めに動くことが大事ですね。

岩見:
本当にそうです。今後、イベントのために何かを仕入れるというときには、即準備に取り掛かろうと思いました。

PCで資料を見ながら回答する岩見

――今月はレンタルスペースの契約が1日だけありましたね。3万円の売上です

岩見:
『RRRをめぐる対話』という本の著者サイン会をしたいということで、出版社から申し込みをしていただきました。基本的に、書店のイベントスペースでサインイベントをやるときは、その書店で本を仕入れて売るというのが前提です。でも今回は「既に本を買ってくださった方にも、持ち込みでサインをしてあげたい」という意向があって、開催場所を探していたそうで。当日は著者さんがイベントスペースに待機して、サイン希望のお客様に対応していました。

計100名ほどのお客様が来店してくれて、かなり賑わっていましたね。僕たちも、この日に合わせてインドにまつわる書籍をいくつか準備しており、何冊か売れたのがうれしかったです。

――これからもサイン会のニーズはあるかもしれませんね。では、販売管理費を見てみましょう。

主要販売管理費の表
給与手当¥304,614、荷造運賃¥9,177、通信費¥43,737、
消耗品費¥19,643、支払手数料¥60,036、地代家賃¥280,000

岩見:
1月に消耗品として買ったのは、ブックスタンド。あとはショップカード増刷のために約5,000円を使いました。法定福利費がいつもより高いのは、昨年7月~12月分の源泉所得税をまとめて支払ったためです。

――あとは、荷造運賃が跳ね上がっていますね。12月は1,000円強だったところが、9,000円ほどになっています。

岩見:
まさに先ほどお話しした直送の関係ですね。こう見ると、やはり痛い出費です……。

あ、お金まわりの失敗ということで、もう一つエピソードを思い出しました。書籍とドリンクを同時に購入してくださったお客様に対して、お会計時の消費税の設定を間違えてしまったことがあったんです。飲食には軽減税率があって、店内だと10%、持ち帰りだと8%になるので、どちらに設定するかレジ端末上で選択できるようになっています。その画面で操作ミスをして、一旦消費税を消してから再設定したつもりが、書籍の方だけ消費税なしという設定になってしまって。気づかずに会計してしまいました。

たまたまお客様が気づいてくださって後日対応できたのですが、店長と共に慌てましたね。利益率のためにいろいろな商品を売りたいと思っていますが、いろいろなものを扱うと、その分オペレーションがどんどん複雑になるなと痛感しています。

業務の複雑さを痛感し、苦笑する岩見

クラファン公開!2週間で目標の60万円を達成

――棚貸しの進捗についても聞かせてください。1月半ばにクラウドファンディングを公開していましたね。

岩見:
はい。ありがたいことに公開2週間弱ぐらいで、目標の60万円を達成できました。正直もう少しゆっくりなペースを想定していたので、思った以上に注目してくださってる方がいるんだなとうれしいです。プレスリリースを出したり、SNSで工事の進捗を報告したりした成果かもしれません。今回は、設備工事におよそ120万円かかったので「一旦その半分を」ということで目標金額を60万に設定していました。3月下旬まで、目標を120万円に引き上げて募集を続けています。

さまざまなリターンを用意していますが、棚主になれるプランはやはり人気。54あるうち30の棚を出したら、早々に埋まった状況です。残りの棚も追加で出そうと検討中です。

――順調で何よりです。現状、困っていることはありますか?

岩見:
いざスタートした場合の細かい管理方法については、まだまだ模索中です。入会金や月額利用料をfreee会計でスムーズに管理するには、どうやったらいいかとか。棚貸しの商品と透明書店の商品に同じ本があった場合、お客様がレジ持ってきたときにどうやって判別するのかとか。実際に動いていくにあたって考えるべきことが山ほどありますね。

実は先日から、実際に棚主の方がどんなことを期待しているのかを知るべく、インタビューを進めています。クラウドファンディングでご支援いただいた方や、透明書店に来て「棚貸しをやってみたいです」と言ってくださった方のうち、既に他の書店で棚主を経験している方を対象にリアルな声を聞いているんです。

この間、インタビューで興味深かった判明したのは、棚主同士のコミュニティはあったらうれしいけれど、そこまで重視していないという意見。それよりも、自分の棚の本をレコメンドしてくれる機能とか、本を買いにきたお客様とのコミュニケーション面で何らかの支援があるとうれしいということで、なるほどと思いました。いただいた声は、店内に設置する予定の「くらげAI」の開発の参考にしたいと思ってます。

岩見正面からの写真

――どんなかたちになっていくのか楽しみです。では最後に、2月の意気込みを教えてください。

岩見:
暑い時期と寒い時期は店舗経営が厳しくなるのが一般的ですが、蔵前は冬でも比較的お客様が来ると聞いていました。実際、1月は安定して集客できていたと思うので、2月にも期待しています。ぜひ皆様、お気軽にお越しくださいね。

2024年度、freeeは黒字化を目指すことを掲げています。だから透明書店も同じタイミングで黒字化を達成したいです。なかなか難航していますが、利益が出る仕組み作りをこれからも追求していきます。

PCで作業する岩見

透明書店のあゆみ 

「透明書店のあゆみ」の表
営業日数:199日間、売上冊数:3,878冊、くらげに話しかけた回数:5,277回、
イベント数 /参加者数:35本/863名、本の紹介ツイート数:260回

1月の振り返りメモby遠井店長

厳しい寒さが続きましたが、心配していたほど客足が減ることはなく、たくさんのお客様に来ていただいています。クラウドファンディングも好調で、安心しました。店内でくつろげるように内装を整えたり、ホットドリンクの提供を始めたり。お客様がもっと心地よく過ごしていただけるよう工夫を凝らしています。通常営業のときにドリンクを頼まれる方はまだ少ないのですが、ぜひ本と一緒に素敵な時間をお過ごしください。皆様のご来店をお待ちしています。

失敗を糧にレベルアップしていく透明書店。2月の「お金まわり公開記」もお楽しみに!


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取材・執筆:安岡晴香
ライター・編集者。広告代理店、総合出版社勤務を経て独立。ウェブや雑誌で主にインタビュー記事を担当している。
撮影:芝山健太 デザイン:Samon inc. 編集:株式会社ツドイ

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