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「やっぱり、リアルな経験がしたかった」freeeの現場奮闘記×販売・在庫編

最初の仕事は「シュッとした」レジ選び!?

透明書店を舞台に、実務と実験をおこなうプロジェクト「くらげ会」。freee社内からさまざまなスキルを持つ有志メンバーが集い、通常業務の傍ら、さまざまな試行錯誤を重ねています。
そんなくらげ会メンバーのリアルな姿に迫る新連載、『現場奮闘記』。
第1回は、商品在庫管理・発注まわりのブレーン的存在として活躍するぱんださん(オフィスネーム)。スモールビジネスのリアルを体感したfreee社員は、いったい何に悩み、何をつかむのか――。
「お金まわり公開記」につづきライターの安岡晴香さんに取材いただきました。


笑顔で取材を受けるぱんだ氏
2018年入社。クラウド型販売管理システム「freee販売」のプロダクトマネージャーを務めている

――今日はよろしくお願いします。ぱんださんはくらげ会で、商品在庫管理や発注業務を担当されているとのことですが、具体的にはどんな仕事をしているのでしょうか?

透明書店では、書籍とグッズを販売しています。有形商材を扱うビジネスなので、物の動きをいかに正しく管理するかが重要になります。どの書籍をいくつ仕入れたか。いくつ売れて、店頭にどのくらい在庫が残っているか。このような基本的な情報を管理するためにシステムを整えるのが、私の仕事です。それに加えて発注まわりのシステム整備や、ECサイトづくりにも携わってきました。

――なるほど、書店経営の土台になりそうなお仕事です。

そう思います。正確かつ効率的に商品を管理できるよう、工夫する毎日です。

――そもそも、ぱんださんはなぜくらげ会に参加しようと思ったのでしょう?

きっかけは、既にくらげ会にいるメンバーから「ぱんださんもぜひ入ってくださいよ」と声をかけられたことでした。おそらく私が普段の業務で有形商材を扱うクライアントと関わっているから、頼ってくれたんだと思います。

――ぱんださんの普段の業務は、「freee販売PdM(プロダクトマネージャー)」ですね。

はい。「freee販売」という、発注や販売、在庫管理などの業務をシステム化するプロダクトを担当しています。有形商材を扱うスモールビジネス向けのサービスで、小売業や卸業、製造業のお客様と関わっています。

――なるほど。書店も小売業だから、まさに適任ということでぱんださんに白羽の矢が立ったわけですね。実際に書店を立ち上げる段階では、まずどんなことをしましたか?

最初にとったアクションは、POSレジシステムの選択でした。今やPOSレジにも多種多様なサービスがあり、システムによって対応可能な決済方法や機能、使い勝手などが変わります。だから本来は、最初に先々まで見越して最適なものを選ぶ必要があるんです。

と言っても私は細かく比較検討することなく、目についたものをパパッと選びました。じっくり検討してもよかったけれど、あえて即決したんですよ。

取材を受けるぱんだ氏の後ろ姿

大事なのは、経験の「リアルさ」

――あえての即決。どうしてですか?

一般的なスモールビジネスの現場では、開業前の忙しいなかでPOSレジシステム選びにそこまで時間をかけないだろうと思ったからです。じっくり検討するより、、見た目で端末を選ぶというのが、案外リアルなところではないかと考えました。
それに、スモールビジネスって、店主の夢をかたちにしたもの。とにかくワクワク感が大事だし、店内には見ていて気分が高揚するようなものを置きたいはず。そんな気持ちを想像して、単純にデザインがシュッとしているものを選びました(笑)。

取材中笑みを見せるぱんだ氏

――リアルなスモールビジネスを経験するぞ、という心意気が伝わります。

私がfreeeの社員であるのは事実ですが、スモールビジネスを営む方々と同じ目線に立ちたいと思ったんです。レジに商品を登録するときも、その点にこだわりました。

バーコードでお会計できるようにするには、あらかじめレジに商品を覚えさせる必要があります。しかし取り込みたい商品は、約3,000点もありました。最初からリストとしてまとまっていればよかったものの、当時の商品リストには価格やISBN(※書籍の識別コード)などの重要な情報がなく、別途作成が必要な状況だったんです。

3,000点の登録なんて膨大すぎて無理……と心が折れかけました。あのとき、社内のエンジニアに頼んでいたらきっとすぐ解決してくれたと思います。でもやっぱり、リアルな経験がしたかった。だから会社のリソースには頼らず、なんとか自力で解決策を見つけられました。

――3,000点……。どうやって登録したんですか?

ありがたいことに、調べてみたら出版物のデータベースというものが存在していたんです。それを活用しながら、ChatGPTにリストをつくってもらいました。結果、書籍のバーコードをレジに読ませれば商品を認識してくれるかたちまで整備できました。

ただ、それですべてスムーズにいったわけではありません。さっそく次の瞬間、別の壁にぶつかり苦戦しました。

腕組み

――別の壁、というと?

扱いたい書籍のなかに、たとえば「税込1,000円」というような、システム上設定できない価格の本がいくつかあったんです。税込1,000円だとシステム上、本体価格と消費税がうまく分けられない。登録したくても、POSレジシステム上でエラーになってしまいました。

――なんと……。ではその商品は、取り扱い不可になってしまった?

結局、版元に了解を得て税込999円として売ることで解決としました。

システムは業務を効率化する便利なものですが、こんなふうにビジネスのさまたげになるケースもあるんだなと実感した出来事でしたね。もし「システムに登録できないから」という理由だけで商品の取り扱いを諦めなくてはならないなら、とても悲しいこと。システムのあり方について、考えさせられました。

取材を受けるぱんだ氏の横顔

ニーズを自力で満たす時代へ

――業種や店舗単位で、細かいニーズは違いますもんね。すべての要望に応えてくれるシステムがあったらいいですが…。

理想はそうですが、でもSaaS(※「Software as a Service」の略。サービスとしてのソフトウェアという意味)って、基本的にはニーズの「最大公約数」を満たしていくものなんです。だから各々の要求に完璧に対応するのは難しい。

一方で今は、各々がChatGPTなどの新たなテクノロジーを自由に活用し、自力でニーズを満たしていける可能性も生まれてきています。一昔前は、大企業など一定の環境がないとAIを使えませんでしたが、今はスモールビジネスをしている人でも簡単に使えますからね。スモールビジネスにおけるSaaSのかたちが、変わり始めているのかもしれません。

インタビューイーの話を聞くぱんだ氏

――自分たちでいかにシステムを確立するかが、肝になる。その意味で、これから加えていきたいシステムはありますか?

早めに追加したいのは、返品を把握する機能です。書店では、本を出版社に返品できる制度があるのですが、現行のPOSレジシステムには返品機能がついていません。通常の小売業者用のものなので、当然ですけどね。

今はどの本をいつ返品したのかを手打ちで管理しています。でも時間もかかるし正確性も劣るので、どうにかしてシステムに落とし込みたいです。うまくシステム化できれば、返品対象の書籍を一定の基準ですくい上げて通知するシステムもつくれそうですしね。たとえば「3ヶ月売れなかったら返品を提案してくれる」とか、そういうシステムがあるとなお便利かなあと。

あとは、セルフレジ、無人レジについても模索中です。現行のPOSレジシステムにセルフレジ機能がついていないので、どうしようかと頭を抱えているところですが……。

答えを考えるぱんだ氏

――セルフレジ。実現したら、売上アップの柱になりそうです。

実際、店長が休憩していても本が売れるというのは大きいですよね。それに会計対応の負担が減れば、店長は売上アップのための案をじっくり練れる。

どの本を仕入れ、どう売るのか。そういったことを考える創造的時間を増やすために、単純作業は積極的にシステム化していこうと思います。

「やる側」に立ったから見えたこと

――くらげ会に参加したことで、ご自身のなかでどんな変化が起こりましたか。

スモールビジネスを「やる側」に立ったことで、目のつけどころが変わりました。これまで通常業務では、お客様の悩みを解決しなくてはという使命感のもと、スモールビジネスが抱える「バックオフィスの課題感」にばかり目が向いていたんです。でも今は、スモールビジネスの全体像を捉えられるようになりました。バックオフィスだけでなく、商品を売りたいという切実な思いや、売れたときの純粋なうれしさに、とてもリアルに思いを馳せられるようになっています。

もしくらげ会に参加していなかったら、スモールビジネスならではの感情をこんなに知ることはできなかっただろうなと思います。freeeはバックオフィスの支援をしている会社なので、本来なら「自分の夢をかたちにして、それでお金をいただける」という経験はできませんからね。

――実際に現場に立ったからこそ、いろんな気づきを得られた。

その通りです。もちろん大変なこともありますが、「ものが売れるってこんなに楽しいんだ!」とワクワクする毎日です。
これからも、透明書店のためだけでなく、世の中のスモールビジネスのことも考えながら、くらげ会に積極的にコミットしたいと思います。

取材中思わず笑みがこぼれるぱんだ氏

――書店の現場に立ったことで、これまでにない視点を得たんですね。そんなぱんださんが今後どんな展開を仕掛けていくのか、引き続き期待しています! 今日はありがとうございました。

この連載では、透明書店をさまざまな角度から支える「くらげ会」メンバーに、引き続きお話を伺います。次回もお楽しみに!


◆取材・安岡晴香
ライター・編集者。広告代理店、総合出版社勤務を経て独立。ウェブや雑誌で主にインタビュー記事を担当している。

撮影:芝山健太 デザイン:Samon inc. 編集:株式会社ツドイ

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