【ついに黒字化】オープン1周年でようやく達成!売上264万円、営業利益35万円【過去最高売上】
2023年4月、東京・蔵前に開店した「透明書店」。本連載『お金まわり公開記』では、オープンから毎月、売上や利益、経費などを赤裸々にお伝えしてきました。「どうにか黒字化したい」と意気込んできた4月の実績は、どうだったのか? 聞き手はライターの安岡晴香さん。透明書店の代表を務める岩見俊介がお話しします。
1年経ってついに黒字化!背景には「3つの要因」が
――4月の実績が確定しました。結果はいかがでしたか。
岩見:
ようやく黒字化を達成しました! まだまだ気を抜けませんが、ひとまず安心しています。売上は約265万円。もろもろを差し引いた営業利益は約35万円という結果になりました。詳しくは4月のPL表をご参照ください。
岩見:
主要項目だけ抜き出してみます。
岩見:
ジャンルごとの売上実績と月次目標はこちらです。
――初の黒字化、おめでとうございます!好調の要因は?
岩見:
以下の3つの要素が大きかったと思っています。
①「すてきな小さい出版社フェス ~本の産直市@透明書店~」
小さい出版社さん9社に、特設ブースでの書籍販売を行っていただきました。売上は、2日間で計30万円です。
②全11回のイベント
最近のイベント本数は平均して月3〜4本でしたが、4月は11本実施。チケット代・ドリンク代で、大きな数字を作れました。
③「ネオンかわいい。展」
ネオン看板などを制作しているアオイネオンさんが、レンタルスペースで展示・販売をしてくださいました。スペースレンタル料が10万円と、物販売上が約80万円という実績になりました。
――なるほど。後ほど詳しく聞かせてください。
「小さい出版社」9社が集結!ブース販売でフェス的盛り上がりに
――では、まず書籍の売上から見ていきます。売上は100万円弱、達成率135%という好実績でした。特にインパクトが大きかったという「すてきな小さい出版社フェス」では、どんなことをしたのでしょうか?
岩見:
4月13日(土)・14日(日)の2日間、小さい出版社さん9社に来ていただき、フェス的なかたちで書籍をブース展開いただきました。きっかけは、トランスビューさんという会社からお声掛けをいただいたこと。同社は、小さい出版社のために「直取引代行」を行いつつ、ご自身でも出版社をやられている会社です。以前から同様のイベントを行っていて、今回は「もっと小さな書店でやりたい」と考えたそうで透明書店にお問い合わせくださいました。
岩見:
出版社ごとにブースを出していただき、イチオシ書籍やアウトレット本、計400〜500冊が集結しました。店内はもちろん、外のテラススペースにもブースを出してもらったので、とてもにぎやかな雰囲気でしたね。より盛り上げるために、遠井店長がインスタライブも実施。それぞれの出版社さんに取材をして、どんな会社がどんな本を出しているのかを紹介するラジオ的な配信を行いました。じっくり本を選んでいる人も、楽しそうに会話している人もいて、活気あふれる2日間でした。
――ワクワクする空間ですね。売上実績はいかがでしたか?
岩見:
各出版社にご用意いただいた書籍は、2日間で計92冊売れました。さらに、透明書店としても103冊を販売。イベント前週の土日と比較して2倍以上の売上冊数となりました。これを機に初めて直接顔を合わせられた出版社さんが多く、新しいつながりができました。
今回はトランスビューさんからお問い合わせをいただきましたが、透明書店主催で同様の企画を行うのも楽しそうですよね。リトルプレスをテーマにフェスを実施するのもおもしろそう。夏〜秋あたりに実現できたらいいねと遠井店長と話しているところです。
――いいですね。他に、4月にとりわけ売れた書籍はありますか。
岩見:
『NEON NEON 〜東京周辺ネオンのガイドブック』(LITTLE MAN BOOKS)が52冊売れました。先ほど紹介した「ネオンかわいい。展」の関係者が取り上げられている書籍です。単価2,700円という高価格帯の本なので、売上は計14万円にもなり、実績を大きく押し上げてくれました。ネオンアートは購入できないけれど、お土産的にいろんな作品が載っている本を買ってみたいというニーズがあったのだと思います。
あとは、引き続きリトルプレスも好調です。これからも、取り扱いを強化して参ります。
開店1周年記念のスペシャルイベント開催。「透明書店の伸びしろはまだまだある」
――ありがとうございます。続いてイベント関連のトピックをお伺いします。今月は、企画が11本もありました。
岩見:
売上をなんとか伸ばしたいという思いで、4月に照準を合わせてイベントの数を増やしました。中でも軸になったのは新刊の刊行イベントで、11本中5本を占めています。 新刊は毎日たくさん出るので、刊行イベントをコンスタントに開催すれば、本数が安定すると思ったんです。店長と一緒に刊行予定リストを随時チェックし、透明書店に合いそうな書籍があれば「イベントをやりませんか?」と積極的にご連絡をしました。結果、想定通り本数を増やせましたので、このスキームは今後もぜひ続けていこうと思います。
――なるほど。11本のうち、特に印象的だったイベントはありますか?
岩見:
個人的には、開店1周年記念のスペシャルイベント『これからの本屋と透明書店』が心に残っています。
37名のお客様と一緒に、透明書店の1年間を振り返りました。実は1年前のオープニング時にも、同タイトルのイベントをやったんです。1年経った今、透明書店や出版業界全般について改めて考えを深めようということで、再度開催しました。今回は、1年目のイベントにも来てくださったブックコーディネイターの内沼晋太郎さんと、BRUTUS元編集長、現在マガジンハウス取締役でいらっしゃる西田善太さんをお招きしました。
――おお、豪華なゲストですね。
岩見:
以前、透明書店の代表として西田さんのラジオに呼んでいただいたことがありました。その際、西田さんが「イベントに呼んでくれたら出ますよ」と言ってくれて。社交辞令的に言ってくださったのかもしれませんが、無邪気に受け止めて今回のイベント出演を打診してみたら、二つ返事でOKしてくれました。
内沼さんは書店の専門家として、西田さんは文化、カルチャーに深い知識を持っている方として登壇。透明書店、そして本屋というものがこれからどうあるべきかを探るような様々なお話をしてくださいました。書店に興味がある方、特に、これから自分で書店を始めたいと思っている方にとって、すごく学びのある時間になったのかなと思っています。
――特に気づきのあったトピックは?
岩見:
たくさんありましたが、選書についての話が印象に残っています。小さな書店が生き残っていくためにどんな本を売ったらいいか、という話になったときに、内沼さんがおっしゃったんです。ベストセラーの本を置いたからといって、小さな書店でめちゃくちゃ売れるかというとそれはわからない。品揃えは大型書店には勝てないし、利便性はAmazonには勝てない。だからこそ、小さい書店はテーマ性を持ってやるべきという内容でした。透明書店ではこの1年、僕たちならではのラインナップを追求し続けてきたので、改めて方向性は間違ってなかったんだなと、ほっとする思いでした。
あとは、このたび透明書店が始める「棚貸し事業」についても話が盛り上がりました。西田さんは棚貸しについて、最初は少し懐疑的というか、書店が棚貸しをやる意義は何なのかがよくわからないというスタンスでいらっしゃいました。そんな中で、内沼さんや僕と話をするうちに、一定の価値を見出してくださったご様子で。これからの透明書店の取り組みとして、背中を押してもらったような気持ちになりましたね。
――イベントでは、透明書店の売上推移なども詳しくお話ししたそうですね。
岩見:
はい。この『お金まわり公開記』でも出しているような、毎月の売上や利益を投影しました。赤字続きの現状をありのまま見せながら、こんな試行錯誤をしてきたというお話を広げていきました。その流れで、内沼さんが経営している本屋B&Bの売上についても教えてもらって……やっぱりスケールがすごかったです。
実はかつて内沼さんに、透明書店のような規模感ならもっと売上が上がるはず、みたいなことをちらっと言ってもらえたことがありました。改めて、僕らにもまだまだ伸びしろがあるんじゃないかと感じましたね。希望を捨てず、利益を膨らませていけるようにこれからも尽力します。
――応援しています。今月のイベント本数「11本」は、5月以降も続けられそうでしょうか……?
岩見:
続けたいという気持ちはあるのですが、現実的なところ、なかなかコントロールが難しいなとも思っています。
新刊の刊行イベントは、できれば毎週やりたいと思ってはいるのですが、出版社さんや著者さんの都合があり、声を掛けてもすべてがマッチングするわけではありません。断られることを見越してたくさんお声掛けをするという手もありますが、イベント1個ずつのクオリティを担保したいから、無闇に増やすのもよくないよなと思っています。せっかく実現したイベントで参加者が伸び悩んでしまったら、透明書店としてものすごく申し訳ない気持ちになるので……。
あと正直、11本という本数は、オペレーション的にかなり無理をした側面がありまして……。月の営業日が20日前後で、うち半分がイベント実施日となると、選書や仕入れになかなか手がかけられなくなってしまうことに気づきました。
だから現実的には、新刊イベントは月4本、その他のイベントも入れて合計月6~8本ぐらいが理想的なラインかなと。単に本数を増やすというよりは、一つひとつの内容を研ぎ澄まし、お客様をしっかり集められるよう体制を整えていきたいですね。
ひとつ15万円のネオンアートが売れた!ギャラリー活用の可能性
――先ほどお話に出た「ネオンかわいい。展」ついてもお伺いしていきます。そもそもなぜ実施する運びになったのでしょうか?
岩見:
先月の記事でもご紹介いただいた「TOKYO CREATIVE SALON」というイベントで、以前アオイネオンさんと出会い、面識があったんです。ネオン看板の制作をしている企業で、2020年から毎年行われている「大ネオン展」の企画・制作も担当されています。そのつながりから僕は、今年の1月に東京タワーで開催された同イベントに遊びに行きました。その際に僕が「最近、透明書店にギャラリースペースを作ったんです」とお話ししたところ、ちょうどギャラリースペースでの展示を検討していたようで今回の実施に至りました。
――展示期間は、4月の15日〜29日の2週間ですね。売上金額を詳しく教えてください。
岩見:
合計で約90万円です。スペースの使用料が10万円と、ネオンアートや関連グッズの売上が80万円ほどになりました。
ネオンアートは、4点売れました。8万〜15万という高価格帯の商品だったので、手数料としても大きなインパクトになっています。他にも、関連グッズの売れ行きが好調。コンパクトミラーやサコッシュ、ポストカード、缶バッチのガチャガチャなどを置いて、ネオンと一緒に展開しました。ネオン画家のはらわたちゅん子さんにデザインを依頼したオリジナルTシャツも大好評でした。
最終日にはトークイベントを開き、アオイネオンさんやはらわたちゅん子さんにご登壇いただいて、それぞれの思いやストーリーをお伺いしました。濃密な時間でしたね。2週間、普段と店内の雰囲気がガラリと変わって新鮮で面白かったし、賑やかなネオンが1周年を華やかに彩ってくれました。
――レンタルスペースがこんなに盛り上がるなんて、素晴らしいですね。
岩見:
予想以上の手応えでした。もともと僕は前職の経験として、カフェやアパレルのショップでアートを飾ったら数十万単位の売上が出る例を見てきたんです。だから、ギャラリーを作れば盛り上がるのではないかと可能性を感じてはいたのですが、想像より売れたなという嬉しい驚きがありました。
この知見を活かし、今後も定期的にレンタルスペースを使って企画ができると面白いなと思っています。
――棚貸しの進捗はいかがですか?
岩見:
クラウドファンディングで棚主になれるプランに申し込んでいただいた方に、案内を始めているところです。棚に並べる予定の商品登録も始まっています。3月にご支援をいただいてから少し時間が経っていることもあり、ご連絡をしても返答がない支援者の方もいらっしゃるのですが、現状、38人いらっしゃるうちの30名ほどとはコミュニケーションが取れています。引き続きご案内を続けながら、本格始動に向けて動いていきます。
――いよいよですね。ここで、販管費についても見ていきましょう。
――「支払手数料」の高さが目につきますね。
岩見:
支払手数料は売上に応じて発生するため、今月は約20万円と高くなっています。「諸会費」4,400円は、カードの年会費。また「支払報酬料」は、イベント時にお支払いする出演料、グッズのデザイン費用などを含んでいます。
販売管理費を削るのにはどうしても限界があるので、今月のように売上がしっかり立っていると安心ですね。
――たっぷり聞かせてくださり、ありがとうございました。最後に改めて、黒字化を受けての感想はいかがでしょうか?
岩見:
1周年記念月である4月、できることは何でもやろうという思いで取り組んできた結果が黒字につながったのかなと思っています。書籍販売、イベント、レンタルスペースの活用、その他企画などを盛りだくさんに行うことができました。
今回の黒字化を受けて、「このくらい売上があると利益が出るんだな」というひとつの基準が手に入ったと思います。書籍で約70万円、物販で約15万円。イベントは月6~8本ぐらいで約30万円ほどの売上をつくれると経営が安定し、そこにスペースレンタルなどの売上が入ってくると安定して黒字になるのかなという感触です。4月の経験を糧に、継続的な黒字化をめざします。
――毎月の売上をnoteを追ってきた「お金まわり公開記」ですが、取材は4月で一旦終了です。
1年、あっという間でした。ここで売上を赤裸々に公開する中で、やはり「書店のビジネスモデルには無理がある」と感じた方もいるかもしれません。僕自身、毎月赤字を報告することに苦しさともどかしさを感じていました。だからこそ、最後に明るい報告ができたのが本当によかったです。書店経営はやっぱり難しいけれど、可能性や希望も十分にあると感じています。これからも、新しいチャレンジを続けていくので、透明書店をどうかよろしくお願いします。
透明書店のあゆみ
4月の振り返りメモby遠井店長
透明書店が1周年を迎えたその月に黒字化することができて、うれしい気持ちであふれています。関わってくださったすべての皆さん、いつも支えてくれてありがとうございます。透明書店は、まだまだ挑戦の途中。今後とも、どうぞよろしくお願いします!
初の黒字化を達成!1年間、経営を心配しながらも応援してくださった読者のみなさま、ありがとうございました。これまでの経営状況や施策を振り返る総集編も、近々公開予定! ぜひご覧ください。
★日々のお金の動きや出来事をより細かく拾うために、店長遠井が毎日つけている営業日誌を公開する連載「透明書店店長・遠井の透明日報」がスタートしました! ぜひご覧ください。
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