見出し画像

【実績公開】走り出した透明書店。初月売上を開示します。

蔵前に店舗を構える「透明書店」。4月21日、ついに営業をスタートいたしました。店名の「透明」が示すのは、“ありのままの情報をオープンにしていく”という決意。そこで新連載『お金まわり公開記』では、毎月のリアルな経営状況を丸裸にしていきます。

第1回目となる今回は、初期費用の使いみちと、4月の売上や利益を調査。聞き手は、以前出版社で書店営業をされていたという、ライターの安岡晴香さん。透明書店の代表を務める岡田悠と岩見俊介への取材を通し、お金の動きを明らかにしていきます。

PCを見つめる岡田と岩見

初期費用、1,500万円。その使いみちは……

―― 今日はよろしくお願いします。
4月の実績がとても気になりますが、まずは初期費用についてお伺いします。何にいくら使って、手元にはいくら残ったのでしょう。

岩見:
じゃあさっそく、内訳を見ていただきましょうか。
初期費用は計1,500万円ありました。そこから使った金額をこちらの表にまとめています。


初期費用の明細表

―― おおお、数字がたくさん。

岩見:
このままだと見づらいですよね。円グラフにしてみると、それぞれのボリュームがわかりやすいかもしれません。順に説明しますね。


初期費用の内訳(円グラフ)

①不動産所得費用:2,335,790円
まず「不動産取得費用」とは、敷金礼金、仲介手数料などです。賃貸契約をしたことがあればピンときますかね。月々の家賃は、毎月別途支払います。

②設備取得費用:5,450,144円
「設備取得費用」とは、主に内装や電気・空調設備、それから棚などの備品に使ったお金です。
最初の見積もりでは900万円ほどがかかる試算でしたが、なんとか500万円半ばまで抑えられました。壁や棚の塗装を自分たちでやったり、優先度の低い工事を一旦見送ったり。このあたりの奮闘の様子は、準備号9話目にまとまっています。

③仕入れ:3,861,251円
「仕入れ」は、商品を揃えるのにかかったお金です。書籍はおよそ3,000冊仕入れて、約370万円。グッズは、Tシャツやグラス、ステッカーなど10種類を用意して約16万円かかっています。
結構な金額ですが、大手取次を介した仕入れだと、書籍には「委託販売制度」があるから返品可能。仕入れた分をすべて売り切らないと、ということはありません。

④創立費/開業費:276,914円
「創立費/開業費」は、会社設立を認めてもらうための費用です。具体的には、収入印紙や定款の認証手数料、登録免許税などが入っています。

⑤その他:667,168円
「その他」には、ロゴ等のデザイン費や、販促用の備品などにかかった金額が含まれています。

使ったお金は、ざっとこんなかんじですね。合計金額を初期費用の1500万円から差し引くと、約240万円が残りました。

―― それが、オープン時点での運転資金ということですね。

岡田:
そうです。本当は、もっとたくさん残しておきたかったんですけどね。当初は「400万円残せたら安心」と思ってたくらいなので。でもまあ、限界まで切り詰めたので、やれることはやったと言えます。

取材に応える岡田

いよいよ4月の売上公開。売上高は130万超えで、目標を大きく達成

――では、さっそく4月の実績についてお伺いします。まず、単月売上目標はいくらでしたか?

岡田:
4月はざっくり、売上100万円をめざしていました。オープンしてみないと金額感がわからなかったので、事業計画は大まかにしか決めていません。5月の実績が固まってから、描き直す予定です。

岩見:
4月は、下旬にオープンしたから営業日が8日間しかありませんでした。なので、売上100万円は、結構強気な目標設定でしたね。

―― たった8日で売上目標100万。達成できたのでしょうか。

岩見:
4月末時点の損益計算書(P/L)をお見せしますね。

※損益計算書
「収益」「費用」「利益」の3軸で、特定期間の営業成績を示す書類。収益や成長可能性を読み解くことができる。英語ではProfit&Loss statementと呼ばれるので、P/Lともいう。

損益計算書

―― これがPL。数字がびっしり……。

岡田:
見慣れない表ですよね。わかりやすいように、重要な部分をピックアップしましょうか。

PL主要項目のグラフ

岡田:
ざっと説明しますと、まず「売上高−売上原価」で、売上総利益が出ます。そこから、人件費や家賃などの「販売管理費」を差し引くことで、「営業利益」が見えます。
そこに利息などの細かい金額を反映したのが、表の一番下の「当期純利益」。4月末時点の純利益です。
上から順に、詳しく見ていきますか。

―― そうしましょう。まず、売上高は約130万円……お、目標達成ですね!
売上総利益も約44万円での着地です。

岩見:
初月らしい好調な数字が出せたかなと思います。でも逆に言えば、オープンの盛り上がりにだいぶ頼った印象もあって。開店直前に複数のメディアが取り上げてくれたから、PR効果もありました。どうしても5月以降は落ち込むと思います。

岡田:
特にグッズの売上は、5月以降どうなるか不安なところですね。4月は記念品的な意味合いで買ってくれた方が多いと思うので。

―― そうか。この売上は、書籍だけの数字ではないんですね。

岡田:
そうです。今の透明書店は「書籍」と「グッズ」、「書店イベント」という3軸で収益が発生しています。
ちなみに、それぞれの内訳はこんな感じ。

売上内訳の円グラフ

岩見:
書籍のウェイトが圧倒的に大きいです。一方、利益の観点では、グッズとイベントにかなり支えられています。書籍の利益率は一般的に約2割しかありません。だから、他でいかに利益を稼ぐかが大事です。

岡田:
本と違ってグッズは価格をこちらでコントロールできるので、収益の要になります。グッズは、原価率が4割以下になるように値段を決めました。

―― イベントの売上は、約14万円。2回開催でこの金額は大きいですね。やっぱり、利益も出やすいですか?

岡田:
はい。原価としてかかったのは、人件費や、チケット販売プラットフォームへの手数料、登壇者に渡す謝礼です。原価率は30%くらいに収まっていますね。
イベントついでに本を買ってもらえる相乗効果もある。もっと回数を増やしていきたいです。

岩見:
イベントと言えば、配信が思うようにいかないトラブルがありました。Zoomで参加者にレコーディングの同意を求めたところ、画面が進まなくなってしまって。やむなくスマホで動画を撮って、後日アーカイブとしてアップロードしました。
リアルタイム配信がスムーズになれば、より多くの集客が見込めるので、配信方法を見直していきます。

考える岩見

かさむ人件費。めざすは残業ゼロ

―― では次に、「販売管理費」について聞かせてください。
販売管理費は約193万円で、その結果、営業利益が-1,489,266円の赤字。手元の運転資金は残り約100万円となっています。
こう見ると、販売管理費のボリュームがかなり多い印象です。どんなことにお金を使ったのでしょうか。

岡田:では、「販売管理費」の内容を詳しく見ていきましょうか。人件費や家賃、光熱費など、経営のためにかかったさまざまな費用が含まれています。

販売管理費の表

―― まず、①給料手当が216,033円。これは、遠井店長のお給料?

岩見:
はい、4月21日から月末までの分です。基本給プラス時間外労働手当でこの金額ですね。

岡田:
すぐ下にある②法定福利費も、遠井店長にまつわる人件費です。耳馴染みがないかもしれませんが、福利厚生費の一種。従業員を雇用している場合、支払いが義務づけられています。月単位で払う決まりなので、8営業日でも満額かかっています。

岩見:
実は……この人件費こそ、現状の大きな課題なんですよ。

―― というと?

岩見:
時間外労働が原因で、給与が予定より膨らんでいるんです。事業計画では月給30万としていましたが、実際は8営業日だけで21万。見直しが必要です。

岡田:
4月は環境が整っていなかった分、余計な手作業がかさみましたよね。
たとえば、一部の商品がレジシステムに登録できていなくて、お会計時にうまく読み込めなかったり。消費税率が誤って登録されていたり。そのバタバタの分、遠井店長は細かい対応に追われて大変だったと思います。

岩見:
オープンして数日は店長の手が回らず、補充注文が追いつかないこともありました。棚がスカスカになってしまい、面陳(※表紙が見えるように本を棚に立てて並べる)に切り替えてなんとか隠しましたが。品切れは単純に機会損失なので、反省です。
店長の仕事は接客だけじゃなく、搬入された本を並べたり追加発注したりと、かなり忙しい。ワークライフバランスのためにも、早急に改善します。

岡田:
イベントの日は、準備にも労力がかかりますしね。今後イベントを増やしたいと思っていますが、ワンオペのなかどう回していくかも考えなくては。

岩見:
ですね。残業ゼロを目標に、営業時間をずらすなどの調整が必要かもしれません。

PCを見つめる岩見と岡田

―― 今後の変化に注目します。
販管費で他に目立つのは……③消耗品費。937,979円と、およそ半分を占めています。

岡田:
初期費用に入っていない事務用品などが、ここに含まれていますね。これは初月ならではの出費なので、来月以降で調整していきます。

―― なるほど。あと④支払い手数料も、地味に大きいですね。

岡田:
ああ、これは主にキャッシュレス決済のシステム手数料です。でも、必要な金額だと思ってます。
現金支払いがあるとレジ締めの負担が増えるし、銀行にお釣りを用意してもらう手数料や手間もかかる。総合的に考えて、むしろ完全キャッシュレス化しようかという話も出ているので、今後検討していきます。

売れる棚づくりを研究中

―― 最後に、書籍の動きを見たいです。特に人気のジャンルは、ありましたか?

岡田:
4月によく売れたジャンルを見てみましょうか。以下は、僕たちがオリジナルで決めたカテゴリです。販売冊数順にソートすると、こんな感じです。

カテゴリ別売上ランキング

岡田:
特に売れたのは「業種別」と「小さな出版社の本」ですね。
「業界別」は、さまざまなビジネスが舞台の本。「小さな出版社の本」は、文字通りローカル版元などの中小出版社の本です。こう見ると、透明書店ならではの選書がお客様に響いたようでうれしいですね。

岩見:
遠井店長も、売り方についてあれこれ工夫してくれました。4月23日には、「サン・ジョルディの日」フェアを実施。この日はスペイン・カタルーニャ地方で守護聖人として親しまれるサン・ジョルディの殉教日で、かつシェークスピアやセルバンテスの命日にもあたることから、大切な人に本を贈る習わしがある日だそうです。そこで透明書店でも、プレゼント用にセットを組んで販売しました。

岡田:
実際にはセットでは思うように売れず、中の1冊をバラで買いたいというニーズがあったそうですが。もし内容を隠した状態で売ったら、購買意欲が湧いたかもね……なんてことを、遠井店長とは話しました。

―― 試行錯誤をしているのが伝わります。

岩見:
まだまだ手探りですが、トライアンドエラーを繰り返しながら成長していければと思います。
まずは、5月。GWに向けて、売れ筋書籍の追加発注や、営業日の調整もしました。どんな実績が出るか、ぜひ期待していてください。

取材中笑顔を見せる岩見

透明書店のあゆみ

4月の振り返りメモby遠井店長

ついに、オープン初月が終わりました。
近隣の方や、テレビを見てくれた方など、たくさんのお客様にご来店いただけてうれしい限りです。外国人のお客様も、ちらほらいらっしゃいました。
「選書がおもしろい」「くらげがかわいいですね」など直接声をかけてくださったり、「グッズがかわいい」とのリアクションをいただいたり。バタバタして反省も多い4月でしたが、お客様のおかげで頑張れました。

今月特に印象的だったのは「地元で書店を開く準備をしている」という若い女性の方がいらしたこと。透明書店をメディアで見て、特に内装を参考にしたいと思ったそうです。店内のつくりやデザイン、選書を褒めてくださいました。余談ですが、その方は私の出身地近くに住んでいるそう。故郷で新しく書店を始めようとしている方がいることに、気分が上がりました。

ついに第一歩を踏み出した透明書店。5月はGWもあるので、客足が伸びるかも……?なんだかワクワクします。次回の「お金まわり公開記」もお楽しみに。

※運営メンバーの岡田は、このたび育児休業を取得することになりました。今後の運営は別のメンバーにバトンタッチします。

★現在freeeでは、「透明書店」のブランドプロデューサーを募集しています。詳細は以下のリンクからご参照ください。

取材・執筆
安岡晴香:ライター・編集者。広告代理店、総合出版社勤務を経て独立。ウェブや雑誌で主にインタビュー記事を担当している。
撮影:芝山健太 デザイン:Samon inc. 編集:株式会社ツドイ


お知らせ:note無料メンバーシップ「透明書店バックヤード」
透明書店をもっと身近に感じてもらくて、書店経営の裏話を語る無料のメンバーシップ『透明書店バックヤード』を開設いたしました!「参加する」ボタンを押すだけで、無料で気軽にメンバーになることができます。

中央に「透明書店バックヤード」のタイトルと本が画面中に散らばっているキービジュアル。

記事では盛り込みきれなかった、書店経営の裏側を不定期Podcastでお届けします。
まるでバックヤード(従業員控え室)でくりひろげられるような愉快な内緒ばなしを、ぜひお楽しみください。