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体調不良で思うように動けず……。「ワンオペ書店」の怖さを思い知った8月

蔵前に店舗を構える「透明書店」では、売上などの情報を包み隠さず公開しています。今回の『お金まわり公開記』は、8月の売上や利益について。聞き手は、ライターの安岡晴香さん。透明書店の代表を務める岩見俊介が、スモールビジネスのリアルを語ります。


好調だと思ったのもつかの間。売上は先月の半分に……

――8月の数字が締まりました。7月は売上122万円と好調でしたが、手応えはいかがでしょうか? 

岩見:
今月も順調な数字をお見せしたかったのですが、実はまた大きく下がってしまいました。8月の売上は641,098円。前月比53%という実績です。詳しくは、8月末時点の損益計算書(P/L)を見てください。

8月度の損益計算書の表
 

岩見:
今回も主要項目だけ抜き出してみますね。

PL主要項目のグラフ
①売上高:¥641,098、②売上原価:¥342,547、③売上総利益:¥298,551、
④販売管理費:¥816,222、⑤営業利益 ¥-517,671

 ――なるほど……また低迷してしまった印象です。ちなみに今月の目標はいくらで設定してましたか? 

岩見:
今回から、ジャンルごとの細かい目標値をエクセルで管理することにしました。週次のミーティングで毎回進捗を確認し、「伸び悩んでいる理由って何だっけ」「次のアクションはどうしよう」みたいなことを店長と話し合っています。

以下が、8月の月次目標と達成率です。

8月の月次目標と達成率の表
カテゴリ|予算|売上|粗利(概算)|達成率
全体:¥850,000|¥649,600|¥242,956|76.42%
書籍:¥600,000|¥446,111|¥89,222|74.35%
グッズ:¥90,000|¥45,289|¥27,173|50.32%
イベント:¥160,000|¥158,200|¥126,560|98.88%
レンタル:¥50,000|¥0|¥0|0.00% 
※1年間を52週に分けて計算しているため、前出の月次PL表の数字とはズレが生じています。 
売上内訳の円グラフ
書籍売上:446,111円、グッズ売上:45,289円、
イベント売上:158,200円、レンタルスペース売上:0円 
書籍・グッズ・イベント・レンタルスペースの月次推移のグラフ

  ――イベントはほぼ目標通りでしたが、他の3ジャンルは改善が必要そうです。では、まずは書籍について8月に取り組んだことを教えてください。

岩見:
7月の記事でもお話ししましたが、「柔らかめの本を増やす」という作戦に本腰を入れて取り組みました。入口の脇にある棚に、『推し、燃ゆ』などのいわゆるベストセラー本を置いたり、コミックを並べてみたり。透明書店のコンセプトを知らない人でも手に取りやすいようなラインナップに変更しています。コミックはもともと店内に点在していたのですが、まとめて店頭に置きました。入店時の印象がガラッと変わったように思います。

「柔らかい本」の棚の写真

正直、ベストセラー本やコミックを大々的に陳列することに、少しためらいはありました。もともとの「透明書店ならではのこだわりある選書」からはズレるので、店舗の魅力が減ってしまうかもと懸念していたんです。ただ、うまく今の書店に馴染んでいるようで、8月は入口の棚から22冊売れました。続けながらもう少し様子を見ようと思います。 

――幅広い方に親しまれるお店になるといいですよね。ちなみにお盆期間がありましたが、客層に変化はありましたか?

岩見:
お盆はお客様がかなり少なく、特徴的な動きは見られませんでした。暑い日が続いたので、通りを歩いている人自体が普段より減っていた印象です。

新オリジナルグッズ投入!「透明」を切り口にした“映えアイテム”


――グッズの売上は、目標の半分くらいでしたね。

岩見:
このうち半分は、ポップアップの売上です。今回お取り組みをしたのは、本専用のショルダーバッグなどを作っているNIR IDENTITY & BOOKさん。書店と親和性の高いブランドだったこともあり、多くのお客様が手にとってくれました。

そしてもう半分がオリジナルグッズです。8月の下旬には、新規のオリジナルグッズを投入しました。

新商品アイスキャンディーキーホルダー
オンラインショップでも販売中

  ――アイスキャンディーキーホルダー! 夏らしくてかわいいです。

岩見:
初めて来てくださったお客様が手にとってくれるなど、好評でした。今後も計画的に新商品を売って、グッズの売上を安定させたいと思っています。今考えているのは、大きく2方向でグッズを作ること。

ひとつは、トートバッグやブックカバー、栞など「本屋といえばこれ」といえるような定番アイテム。もうひとつは「透明」を切り口にしたアイテムです。今回のアイスキャンディーキーホルダーも、透明から発想した商品。遠井店長や、freeeの社員の意見を参考にしながら制作しました。

イベントの配信を再開。アーカイブ視聴も可能に

――イベントは、3回実施したそうですね。実績も好調です。

岩見:
ありがたいことに集客が安定し、しっかり利益を作れています。8月、特にお客様が集まったのは「稀人たちのエピソードゼロ」というイベント。稀人ハンターの川内イオさんをモデレーターとして、クラフトコーラ「伊良コーラ」を作っているコーラ小林さんをお招きしました。

過去のイベントとは一味違う内容になったと思います。これまでは「蔵前」もしくは「本屋」という括りでさまざまなスモールビジネスのお話を聞いてきましたが、今回は蔵前周辺でもなく本屋でもない、面白いスモールビジネスのお話。聞いていて新鮮でしたね。開業の経緯や苦労を深掘りでき、スモールビジネスに挑戦したい人たちの背中を押すような時間になったと思います。ちなみに「伊良コーラ」は、今度飲食事業を始める際にうちのメニューとして取り入れる予定です。

――おお、スモールビジネス同士で新しい取り組みが生まれるのって素敵です。

岩見:
今後も「稀人たちのエピソードゼロ」として、さまざまな方をお招きしたいと思っています。こうしてご縁がつながっていったらうれしいですね。

あ、そういえば8月から、イベントのオンライン配信が始まりました。
 
――たしか4月に配信トラブルがあって以来、ずっと止めていたんですよね?

岩見:
はい。ようやく環境が整い、再開できました。配信チケットを購入いただくと、リアルタイム視聴と7日間の見逃し視聴がついてきます。遠方のお客様や、時間の都合がつかないお客様にも楽しんでいただければと思います。また、ゲストにご了承いただけた場合に限り、イベント終了後に買えるアーカイブチケットも販売予定です。

笑顔を見せる岩見

――少ない労力で収益が作れれば、数字の面でも大きな意味を持ちそうです。そういえば、新たな収益軸として期待されているスペースレンタル事業は、今月は実績ゼロですね。

岩見:
はい。「テレビCMの撮影で使いたい」という問い合わせがあったのですが、敷地面積の関係で残念ながら見送りになりました。他にも数件ご連絡がありましたが、どれも契約に至っていません。引き続き力を入れていきます。

 ――ちなみに8月の販売管理費は、平均的な数字でした。このところ、販売管理費は大きな波がなく安定している印象です。

8月販売管理費の表
給与手当:¥290,870、法定福利費:¥49,968、通信費:¥40,797、地代家賃:¥280,000

 体調不良で動けず……。ワンオペのリスクを痛感

岩見:
先ほどお盆期間の話が出ましたが、実は僕、その時期に体調を崩し、1週間以上自宅で寝込んでいたんです……。8月は、遠井店長にかなり負担をかけてしまいました。店長がいてくれるからよかったものの、もしワンオペでお店をやっていたとしたら、休業するしかない状況。ワンオペのリスクを痛いほど感じています。

実際、寝込んでいた期間はイベントの仕込みができなかったり、業務連絡が返せず溜まってしまったりと、やるべきことにほとんど取り組めませんでした。スモールビジネスをやるなら体調管理は絶対。より一層気をつけます。また、イベントやグッズなど、早めはやめに仕込めるものは、前倒しで準備していこうと思いました。

岩見後ろ姿

――たしかに、体調によって経営が大きく左右されますよね。そんな中、8月は法人税の申告作業もしたとか。

岩見:
そうなんです。6月末が透明書店株式会社の年度末にあたるため、申告をしました。「freee申告」というサービスを使い、くらげ会のメンバーにも助けてもらいながら、なんとか完了できました。自分1人では到底できなかったと思うのでありがたい限りです。

実際に申告作業をすることで、ユーザーの目線に立ち「ここはもうちょっとこうなったらいいな」という細かい気づきを得られました。開発サイドにフィードバックして、サービス改善に役立てたいと思います。

机に置かれたPC

 ――スモールビジネスの「実験の場」としての機能も、順調に果たせていますね。では最後に、9月の展望をお聞かせください。 

岩見:
7月の数字が好調だったから、8月もその調子で伸びていくだろう、夏休みもあるから賑わうだろうと楽観的に予測していたのですが、期待が外れてしまいました。特に、書籍の売上が大きく下がったのがショックでしたね。来店数が少なくても、ECサイトで本を売れればいいのですが、ECもまだまだ低迷中。まずは、イベントとグッズを計画的に盛り上げることで収益につなげていこうと思います。
 
今もっとも期待しているのは飲食事業と棚貸しサービスが始まること。10月にはスタートできる見込みです。それに向け、飲食事業について保健所に申請を出したり、冷蔵庫を注文したり、メニューを考え始めたりしています。棚貸しも、古物商の許可を取って、具体的に進めています。このあたりの詳しい話は、また来月にでもお話させてください。
 
売上は上がったり下がったりでなかなか安定しないし、黒字化へのハードルもまだまだ高いのが現状。事業の軸を増やしながら、書店としての魅力もアップできるよう、計画的に取り組んでいきます。

机に置かれたPC
 

透明書店のあゆみ

8月透明書店のあゆみの表
①営業日数:95日、②売上冊数:2,178冊、③くらげに話しかけた回数:2,743回、
④イベント数:11本、参加者数:245名、⑤本の紹介ツイート数:112回

8月の振り返りメモby遠井店長

 8月は暑さのせいか、お客様がかなり少ない印象でした。他の独立系書店さんにお話を聞いても、客足は同様のよう。目的を持って来店してくれる方が少しでも増えるよう、魅力的な書店づくりをしなくては。特に、一度来たお客様がリピートしてくれるにはどうすればいいかについて、日々頭をひねっています。
 
そんな中でも「TikTokで透明書店を知った」という学生の方や、「Yahoo!ニュースで見た」というお客様がいらしたのが印象的でした。ちなみに、X(旧Twitter)でアンケートをとってみたところ、透明書店を知ってくださったきっかけは、7割近くがSNSだと判明。お店づくりと同時に、今後もSNSに力を入れていきます。Twitterでは日々の売上や書籍紹介、イベントの告知などを行っています。ぜひフォローしてくださいね!
 
飲食事業や棚貸しなど、バージョンアップに向けてますます忙しくなってきました。新しいことに取り組むのはワクワクするものですね。これからの透明書店にもご期待ください!

売上が再び低迷し、現実の厳しさを思い知らされた8月。一喜一憂するのではなく、計画的に売上の種をまいていくことが大切そうです。9月の「お金まわり公開記」もお楽しみに! 

★日々のお金の動きや出来事をより細かく拾うために、店長遠井が毎日つけている営業日誌を公開する連載「透明書店店長・遠井の透明日報」がスタートしました! ぜひご覧ください。

取材・執筆:安岡晴香
ライター・編集者。広告代理店、総合出版社勤務を経て独立。ウェブや雑誌で主にインタビュー記事を担当している。
撮影:芝山健太 デザイン:Samon inc. 編集:株式会社ツドイ

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