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開業から4ヶ月「運転資金の底が見え……」。2年以内の返済を前提に500万円を借り入れ

蔵前に店舗を構える「透明書店」では、さまざまな情報を明け透けに公開中。今回の『お金まわり公開記』では、7月のリアルな売上や利益を丸裸にしていきます。聞き手は、ライターの安岡晴香さん。透明書店の代表を務める岩見俊介が、経営のリアルなところを語ります。 


売上は、前月比215%と絶好調!

 ――7月の数字が締まりましたね。6月の数字が厳しかったので心配していますが、手応えはいかがでしたか?
 
岩見:
結論から言うと、ホッとする売上が出ました。7月合計で1,220,058円。6月は567,830円だったので、前月比215%という数字です。こちらが7月末時点の損益計算書(P/L)です。

2023年7月の損益計算書
 

岩見:
今月も、主要項目をピックアップしますね。

PL主要項目のグラフ
①売上高1,220,058、②売上原価690,095、③売上総利益529,963、
④販売管理費842,852、⑤営業利益 -312,889 

――安心できる売上ですね。いつものようにカテゴリ別の比率も教えてください。 

岩見:
こちらです。月初に掲げていた目標は「書籍売上55万円、イベント売上10万円」でした。コンサバな設定だったこともあり、無事達成できています。  

売上内訳の円グラフ
書籍売上783,335円、グッズ売上68,583円、
イベント売上128,140円、レンタルスペース売上240,000円
月毎の売上比較の棒グラフ

 ――……あれ? 先月までは書籍・グッズ・イベントの3軸でしたが、今月から「レンタルスペース売上」という項目が増えましたね。
 
岩見:
そうなんです。店舗奥の小さな部屋を「レンタルスペース」として貸し出したことで、売上が立ちました。この新たな事業が、7月の実績を大きく押し上げています。

顎に手を当て考え事をする岩見

ジリ貧状態を救った「レンタルスペース事業」の威力

岩見:
今回の貸し出し先は、freeeの出版レーベル「freee出版」です。7月4日〜16日までの約2週間、「こどもが考えた通貨で買える書店」というイベントを行いました。

 ――こどもが考えた通貨……。どんな企画なんですか?

岩見:
こどもが「通貨」として持ってくるものなら、葉っぱでも、石ころでも何でもOK。コインを使って、欲しい書籍を選んで“買う”ことができる書店です。企画のベースにあるのは、7月4日にfreee出版から発売された『こどもの夢中を推したい』(佐藤ねじ・著)という本。その出版記念企画として「こどもの夢中」を刺激するイベントをfreeeが考えたかたちです。

――葉っぱで本が買える書店……ユニークでおもしろいです。でも、こどもたちに渡した書籍代はどうやって回収したんでしょう?

岩見:
書籍代は、freeeが負担しました。こどもたちに「そもそもお金って何?」と好奇心を深めてほしい。そして、お気に入りの本と出会ってほしい。そんなfreeeの温かい思いが、ぎゅっと詰まった企画でした。

イベント運営については透明書店側で対応しました。そのため厳密には、書籍のセレクトや接客要員として遠井店長が稼働しているので、一部人件費はかかっています。それでも大きな原価をかけずに収益をつくれたのは、経営面でかなり大きかったです。。

スペースのレンタル料は、平日は1日2万円、土日祝日は1日3万円に設定しています。今回のイベントだけで売上は24万円にのぼりました。おかげで7月全体の粗利率は4割を超えたんですよ。過去月と比較すると、こんな推移です。

粗利の推移の棒グラフ
4月:33.7%、5月:20.7%、6月:31.5%、7月:43.4%

 ――おお、7月は突出して高いですね。
 
岩見:
レンタルスペース事業のメリットがしっかり数字に出ていると思います。8月以降、申し込みがまだないのが残念なところ。粗利のためにも力を入れていきたいです。

今回のイベントは盛況のうちに終わり、なんとトータル100組の親子が来てくださいました。合計87冊がこどもたちの手に渡っています。透明書店が選んで並べた本をこどもたちがキラキラした目で喜んで手に取ってくれるのは、僕や店長にとってすごくうれしい経験になりました。

笑顔を見せる岩見

  ――親御さんにも、透明書店の魅力が伝わったかもしれませんね。

はい。多くの親御さんがイベントついでに透明書店の棚を見てくれていました。店長の肌感では、半分くらいの方が本をお買い上げくださったそうです。今回透明書店を初めて知ったという声も多数聞こえましたね。あとは、イベントをきっかけに出版界隈で著名な方なども来店され、透明書店を褒めてくださいました。イベントの様子をSNSにあげてくれる方が多数いて、透明書店のPRにもつながったと思います。イベントとの相乗効果で、今月は書籍売上まで好調です。 

“柔らかい選書”に手応え

 ――書籍に関して、先月の取材で「手に取りやすい柔らかめの本を充実させる」とおっしゃっていました。お客様の反応は変わりましたか? 

岩見:
あくまで肌感ですが、足を止めてくれる方が増えてきた気はしています。だからもっと規模を拡大し、入口左にある棚では、柔らかめの本を揃えようと決めました。現在追加発注をかけている段階なので、数字に現れるのは8月以降ですね。

透明書店を詳しく知らずにフラッとご来店くださるお客様も多いなか、どんな層でも満足いただけるよう、書店としての振り幅を広げていくつもりです。
 
――楽しみにしています。続いて、透明書店主催のイベントについても聞かせてください。先月は「イベント集客に課題感がある」と悩んでいましたよね。今月の客入りはいかがでしたか?
 
岩見:
7月はトークイベントを3回実施し、いずれも10〜15名のお客様にご参加いただきました。売上は、合計128,140円です。会場のキャパシティは25名なので、集客への問題意識は引き続き感じているところです。

ただ、チケットの売れが以前より安定してきた感覚があるんです。小規模ながらも反響があり、じわじわしっかり売れるようになったというか。リピーターの方がいらっしゃるようになったのも喜ばしい変化ですね。「前のイベントがおもしろかったから、また来た」「定期的にイベントスケジュールをチェックしている」といった声が聞こえてくるようになっています。
 
――着実な変化を感じます。……変化といえば、気になっていたことがありました。先日店舗にお伺いしたとき書籍にまぎれてソープが陳列されているのを見たのですが、あれは?

岩見:
ああ、「WITH RIVER」さんの商品です。ポップアップストアとして、オリジナルソープと写真集を期間限定で販売していました。

「委託販売」といって、利益が出たらその一部を還元していただくというスタイルです。たとえば10点お預かりして3点売れたら、3点分の利益の一部をいただく。透明書店のほうで在庫を抱える心配がないのでリスクなく取り組める構造になっています。ちなみに今回出た実績は、先ほどのカテゴリ別売上のグラフではグッズ販売の項目に含めていますよ。

――いいビジネスモデルですね。店頭が、いつも以上に華やかに見えました。

お客様はもちろん、道行く人たちの目も引くような、ちょっとした彩りになっていましたよね。今回は「WITH RIVER」さんがもともとfreeeのユーザー、かつ僕の知り合いだったことからお取り組みさせて頂いたのですが、今後は「ポップアップショップをやりたい」という希望に広く応えたいと思っています。

「運転資金が100万円を切ってしまい……」 

 ――7月の販売管理費は、特に目立った出費もなく平均的な数字です。かつ売上も好調だったのに、営業利益は-312,889円。……なかなか黒字にはなりませんね。
 
岩見:
はい。販売管理費を大幅に削っていくのは現実的ではないので、とにかく売上を高めることで黒字化をめざします。

販売管理費の表
 給与手当:305,023、法定福利費:49,968、通信費:38,295、地代家賃:280,000

――赤字が続き、いよいよ運転資金も危ないのでは……? 

岩見:
そこに関して、今日は大きな報告があります。実は7月、500万円の融資を受けました。6月末時点で手元のキャッシュが100万円を切るような状況だったので、このまま7月を終えたら本当に資金が尽きると危惧したからです。
 
仮に不調だった6月の売上が1年間ずっと続くと想定して必要資金を試算したところ、弱気に見るとあと600万円、強気の売上シナリオでもあと300万円は必要という結論に至りました。まったく足りないので、500万円という金額を借り入れました。

考える岩見の横顔
握り締めた岩見の拳

 ――なるほど。 

岩見:
今回つくづく感じたのは、経営が安定するまでの運転資金の重要性です。そもそも開業時に「初期費用1,500万円」と設定したのが絞りすぎだったのかもしれません。インターネットに出ている記事では、書店開業資金は1坪当たり80万から100万円が相場だという言及があったので……。

――透明書店は、22.6坪あると聞きました。……坪80万でも1,800万円、坪100万だと2,260万円は必要という計算になります。そういえば、最近都内にオープンした独立系書店が、初期投資に1億円かけたというニュースを見ました。書店開業って、お金がかかるものなんですね。

岩見:
当初は「スモールビジネスを始めるのに初期費用2000万円を用意するというのはリアリティがない」という理由で、できる限り絞ったんです。でも、もっと資金を入れるべきでした。書店業は粗利率が低い上に何百万円という規模の在庫を抱える業種。黒字になるまでの資金繰りがとても難しいからです。

もちろん、事業規模を縮小させることで1500万円の中でやりくりするという選択肢もあったでしょう。でも僕らは、透明書店ならではのおもしろいスモールビジネスのかたちを追求しています。今は規模を縮小するのではなく、資金を入れて挑戦していくフェーズだと判断した結果、融資を申し出ました。 

――借りた500万円でしっかり成果を出していく心構えですね。応援しています。

 ありがとうございます。関連して、もうひとつお伝えすべきことがあります。実は今回、親子間貸付というかたちで親会社のfreeeから融資を受けています。「スモールビジネスのリアルを」と掲げている以上、外部の金融機関などを頼って調達するべきだと考えていたのですが、freeeグループ全体として金利等の借入コストを最適化する必要もあったためです。でも、身内だからといって貸し借りがなあなあになることはありません。返済についても細かいプランを立て、2年後の年度末までにきっちり清算するということで契約を結びました。 

秋に向けパワーアップの準備中。まずは売上150万円をめざす

――運転資金が増えたことで、挑戦の幅も広がると思います。今後のビジョンがあれば教えてください。 

岩見:
まず、飲食事業の準備が順調に進んでいます。仕入先をリサーチしたり、必要な設備の洗い出しをしたり、具体的に動いているところです。他には、スペースレンタル業から派生したアイデアとして「棚貸し」を構想中です。店内の棚を一部借り、古本を自由に売っていただけるというサービス。古本を扱うためには古物商の許可が必要なので、書類準備を進めています。飲食と共に秋頃を目安に走らせる予定です。
 
今、最終的な目標として掲げているのは、「月の売上185万円、粗利110万円」という数字。そのためにまず「売上150万円、粗利90万円」を安定して毎月出せるようになりたいんです。透明書店の顔はやはり本を売るお仕事ですが、それだけだと目標の利益率には到底及ばないのが正直なところ。書籍販売以外で収益と知名度を上げ、結果として書籍の売れ行きも好調になればと思い描いています。 

――収益に対する前のめり感が、今まで以上に高まっているのを感じます。最後に、8月の展望をお聞かせください。 

岩見:
5月下旬頃から資金面にずっと不安を感じていて、日々ドキドキしながら資金表を見ていました。でも今回の融資を経て、精神がだいぶ安定しています。経営をどれだけポジティブにドライブできるか、トラブルに対してどれだけ冷静でいられるかは、預金残高にかなり依存するんだなと痛感しました。

もう二度と不安に陥りたくないので…確実に稼ぎを増やせるよう早め早めに動いていこうと思います。8月は目の前の売上だけでなく、先々を見据えて全力で取り組んでいく所存です。

PCの数字を見ている岩見

透明書店のあゆみ

①営業日数:74日間、②売上冊数:1863冊、③くらげに話しかけた回数:2095回
④イベント数:8本/161名、⑤本の紹介ツイート数:91回

7月の振り返りメモby遠井店長 

店内に賑わいが戻り、ちょっぴり安堵した7月でした。レンタルスペースで開催されたポップアップイベント「こどもが考えた通貨で買える書店」では、たくさんのお子さまたちと出会えました。イベント終盤の土曜は、なんと24名のお子さまがご来店!予想以上の盛況にバタバタしてしまった瞬間もありましたが、楽しんでいただけたようで何よりです。

レンタルスペース事業は今後、ひとつの頼もしい柱になりそうですね。スペースの使い勝手をよくするために、入口にある段差にスロープをつけたり、蛍光灯の色を統一したり、細かい工夫を施しました。冷房が届きにくい場所なので、対策としてサーキュレーターも導入しています。
 
出版業界や、WEBメディアの方などのご来店も多く、当店への注目を感じるこの頃。お客様からも「書籍のラインナップがおもしろい」「AIが本をオススメしてくれるので、探す体力がいらなくて便利」など、うれしいお言葉をいただきます。いつも大変励みになっています。より多くの方に気に入ってもらえるようこれからも頑張りますので、ぜひご来店くださいね。
 
売上好調、かつ運転資金への不安も拭われた7月。このままいい流れに持っていけるのか、期待しながら見守ります。8月の「お金まわり公開記」もお楽しみに!
 
★現在freeeでは、「透明書店」のブランドプロデューサーを募集しています。詳細は以下のリンクからご参照ください。

取材・執筆:安岡晴香
ライター・編集者。広告代理店、総合出版社勤務を経て独立。ウェブや雑誌で主にインタビュー記事を担当している。
撮影:芝山健太 デザイン:Samon inc. 編集:株式会社ツドイ

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